掴まれた左手。
その薬指には、シュラ様から贈られたゴールドのリングが、窓から差し込む陽の光を受けてキラキラと輝いている。


「ほぉう、アイツめ。こういう事はしねぇって見せ掛けといて、ちゃんと主張は怠らないンだな。」
「主張、ですか?」
「おう。指輪してるっつー事は、『コイツは俺のモンだ、誰も触ンじゃねぇ!』って事の意思表示に他ならないだろ?」


成る程、結婚指輪には、そういう意味も含まれているのですね。
確かに、指輪をしている事は既婚者の証。
迂闊に手は出せなくなる。


「しっかし、恋人に贈るにしては、随分とシンプルな指輪だな。普通、誕生石とか好きな宝石とか、石の一つくらいはあるモンだろ。」
「でも、石がついていなくて当然だと思います。だって、これ、結婚指輪ですから。」
「ゴフッ!」


結婚指輪と言った瞬間、デスマスク様が盛大に噴いた。
良かった、お茶とかお出しした後じゃなくて。
カーペットに紅茶の染みなど付けられた日には、そう簡単には落ちなくなるもの。


「お、オマエ! 今、なンつった?! 結婚指輪だぁ?!」
「はぁ、そうですが。」
「そうですが、じゃねぇ! 結婚だと?! オマエ等、結婚したってのか?!」
「半ばシュラ様が強引に、ですけど。」


しかも、事実婚ですから、正式な婚姻は一生無理かもしれない。
まぁ、そこはどうしようもないと諦めているので、気にする事もないけれど。


「あンの暴走山羊め! なぁに考えてやがンだ?! やっと恋人同士になったばっかだってのに、いきなり結婚だ?! バカじゃねぇのかっ!」
「いきなり、ではないと思いますよ。」


シュラ様にとっては六年越しの想い。
それに、彼は黄金聖闘士。
いつ、また死が訪れるか分からない身。
焦って当然なのかもしれないと、シュラ様の気持ちを聞いた後では、そう思う。


「で、オマエは、それを受けたって訳か。」
「私に選択の余地はありません。シュラ様がそうと言えば、そうなのですから。」
「オマエね、もう女官じゃねぇンだぞ。何でもかんでも従う必要などねぇンだ。オマエに自分の意思はねぇのか、アンヌ?」
「分かっています。でも、シュラ様に関しては、自分の意思がない訳ではなくて、彼の望む事の全てが、私の意思になりますから。」


その言葉を聞いたデスマスク様は、呆れたように「へっ!」と短い息を吐いた。
苦々しい表情。
でも、口元には薄っすらとニヤリ笑いが浮かんでいる。


「つまりはオマエもアイツにベタ惚れっつー事か。これはこれはオアツイコトで。」
「デスマスク様も、早く恋人さんと仲直りした方が良いですよ。」
「俺の事は放っとけっての。」


ドガッという音と共に、強めに頭を叩かれる。
加減しているとはいえ、地味に痛い。
この様子じゃ、まだ謝りに行ってないのですね。
全く、他人の事を心配する暇があったら、自分の事を何とかすれば良いのに、このお人好しさんは。
呆れの溜息と共に彼を見上げれば、片眉を上げて見返してくる。
そんなデスマスク様の相変わらずな上から目線に肩を竦めつつ、私はお茶を淹れるために席を立った。





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