ダイニングに戻ると、私はアフロディーテ様から頂いた白薔薇を花瓶に活けて、テーブルの真ん中に飾った。
僅か三本だけだというのに、テーブルの上が見違えるように明るく、そして、華やかになる。
昨日の片付けの時に発見(と言うよりも発掘)した花瓶が、奇跡的に丁度良くピッタリと合っていて良かった。
いや、この磨羯宮に花瓶があった事、それ自体が奇跡だろう。
あの物の山の中で、良く壊れもヒビ割れもせずに残っていたわよね。


「あれ? 今日って、シュラは一日いっぱい執務じゃなかったかい?」
「シュラ様ですか? そうですが、それが何か?」


身を屈めて、花瓶の中の薔薇の花弁を丁度良い角度へと整えていた私は、声に反応して顔を上げる。
すると、アフロディーテ様が僅かに首を傾げて、テーブルの上を指差していた。
そこには、フォークや皿やカップなど、向かい合わせに二人分のランチの準備がされていて、きっとそれが気になったのだろう。


「お昼には戻ってくるそうですよ、シュラ様。」
「戻ってくるって、わざわざ?」
「はい。私が作った料理が食べたいと、そう仰っていましたから。」
「ふ〜ん、そう……。」


アフロディーテ様は少しだけ考え込んだ後、スッと目を細めて私の事を暫く眺めていた。
かと思うと、何やら思わせ振りな笑みを浮かべて、ニヤニヤとし出す。
そう、まるでデスマスク様が何かにつけて良く見せる、あの『ニヤリ笑い』のように。


「アンヌ、シュラに何か言われなかったかい?」
「シュラ様にですか? 先程も言いましたが、この宮の事は好きにして良いと……。」
「あー、いや、そうじゃなくてさ。キミ自身の事。」
「私の事? そうですね……、お料理はとても褒めてくださいます、それこそ恥ずかしくなるくらいに。後は……、『気が利く』と、そのくらいでしょうか。」


昨日から今日までの間に、シュラ様が掛けてくれた言葉を思い出す。
そう言えば、『価値がある』とも仰ってくださったけれど、あれは『私自身』の事ではなくて、『私の仕事』に対しての評価の言葉だろうから、数に入れなくても良いだろうと、それは答えに含めなかった。


「それだけ?」
「はい、そうですが。でも、それが何か?」
「いや、良いんだ。気にしないで。そう、まだ何も言ってないのか、シュラのヤツは……。」


顎に指を当てて、またも考え込んだ様子のアフロディーテ様は、何やら『見かけに寄らず』とか『マイペース』だとかをブツブツと呟きながら、ダイニングから出て行こうとする。
だが、ふと入口のところで足を止めて振り返り、真剣な瞳で私を見つめながら問い掛けてきた。


「キミは……、アンヌはシュラの事、どう思った?」
「私が、ですか? あの……、こんな事を言っては失礼だとは思いますけれど、イメージしていたシュラ様と、実際のシュラ様が大きく違っていて、まだ戸惑いが抜け切れません。でも……、それでも素敵な方だと思います、シュラ様は。それは変わりません、以前も今も。」
「そう……、相変わらず優等生な答え方をするんだね。まぁ、良いさ。そのうち、また同じ質問をするよ。その時、キミの答えは変わっているかもね。」


それは一体、どういう事なのだろうか?
まるで意味が分からずキョトンとする私を置き去りに、アフロディーテ様は風のようにヒラリと去って行った。





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