心もお腹も満腹に満たされて、私達はレストランを後にした。
今日、予定していた買物は、全て終えたし、もう行く必要があるところはない筈。
荷物も多くて重い上に、あまり長居すると雨に当たりそうな気配のする曇り空。
今日のところは、もう聖域に戻るのが良いだろう。


「いや、まだ行きたいところがある。」
「何処ですか? 近くですか? 直ぐ終わりますか?」
「そんなには掛からないとは思うが……。とりあえず一人で行きたい。アンヌは何処かで待っててくれ。」
「えっ?!」


思わず、驚いてしまった私。
一人で行きたいだなんて珍しい。
いつも危険防止のためと言っては手を繋ぎ、必要以上に私を離そうとしないシュラ様が、一人で買物だなんて。


「ロイヤルグラードホテルは知っているな?」


ロイヤルグラードホテルといえば、グラード財団系列のラグジュアリーホテルだ。
アテネ市街でも有名なホテルで、人気も高いと聞いている。


「そこのティールームのシフォンケーキが美味いらしい。それでも食って待っててくれ。」
「でも、今、ランチを食べたばかりですから、お腹空いてませんよ。」
「なら、紅茶でも飲んでいろ。俺も三十分くらいで行く。」


そう言うが早いか、何処かへ向けて足早に去って行くシュラ様。
一人、取り残された私は、ぼんやりとその後ろ姿を見送るしかない。


「三十分か……。」


ただお茶を飲んで待っていてもつまらないし、どうしようかと考えながら、ブラブラと通りを歩く。
こうして目的のないウィンドウショッピングをするのも久し振りだった。
磨羯宮に異動になってからというもの、一人でアテネ市街へ買物に出る事がなくなった。
いつもシュラ様が一緒で、だから、ゆっくり楽しむ時間もなかったのだ。
そう思い返しながら、横目でショーウィンドウを眺め歩き、ふと、あるお店の前で足が止まった。


そういえばシュラ様、アイオリア様からいただいた派手パンが、いたくお気に召していたようだったわね。
新しい下着も買わなきゃいけない頃だし、丁度良い。
シュラ様のために何枚か、派手パンを買って上げようかな。
勿論、普通の黒いボクサーパンツも買うけれど。


正直、男性下着のお店に一人で入るのは勇気がいったが、入ってみれば意外に女性が多くて驚いた。
そうか、世の殆どの男性は、奥さんや恋人さんが下着を選んでるんだわ。
だったら、私がココにいてもおかしくはない。


予想以上に種類豊富な男性下着を前にアタフタしながらも、シュラ様が喜びそうな柄の下着を数着、見繕って購入した。
世界の国旗シリーズからスペイン国旗風デザインの下着を一枚、小さな蝙蝠柄が無数に散っているグレーの下着を一枚。
そして、これは多分、有名なジャパニーズ侍だと思われる人の顔が、ど真ん中にプリントされている下着。
更に、一番のお気に入りは、紺の地に十二星座モチーフが入った下着だ。
勿論、山羊座を購入した。


「調子に乗って買い過ぎたかしら。」


シュラ様が何と言うか予想するだけで、苦い笑みが零れる。
買った下着をバッグに詰め、私は足早にホテルに向かった。





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