お店に入って席に着くと直ぐ、シュラ様はメニューも見ずに適当に食事をオーダーし、水を一口飲んで、また席を立ってしまった。


「ちょっとだけ待っててくれ。」とは言っていたものの、何処に行くとか、何をするかとか、一言も言わなかったから、まるで置き去りにされたみたいな気分になって、ちょっとだけ不安にもなる。
彼が頼んでいったのだろうオレンジジュースが二つ運ばれてきたが、先に口を付けてしまうのも申し訳なく、そのまま待っていると、グラスの中で溶け出した氷が、カランと一つ大きな音を立てて揺れた。


シュラ様が戻ってきたのは、それから暫く後の事。
氷の溶けたオレンジジュースは、もう相当に薄まって、半分透明な色に変わってしまっていた。


「すまん、少しだけ時間が掛かってしまった。」
「あ、おかえりなさいませ。何処へ行ってらしたのですか?」
「これを買いにな。」


取り出したのは、先程、話していた大きくて薄手のナイロンバッグだった。
黒いバッグは、見た目以上の容量があるようで。
紙袋から取り出された戦利品は、その全てがシュラ様の手によって手際良く詰められて、大小二つのバッグの中に綺麗に収まった。


「大きい方には重いものを詰めたから、俺が持つ。アンヌは小さい方を頼む。」
「分かりました。あ、軽いですね。これだとシュラ様の方が、かなり重いのでは?」
「この程度、重いとは言えん。問題ない。」


そう言って、テーブルの上のオレンジジュースを一気に煽るシュラ様。
だが、グラスを戻すと同時に、酷く渋い顔になった。
何だこれは、とでも言いた気に。


「薄い。」
「それはそうです。シュラ様が、なかなか戻って来ないので、氷が溶けてしまいました。」
「もう一杯、頼もう。アンヌは良いのか?」
「はい、私はこれで十分です。」


店員を呼んでオーダーを追加するのと、ほぼ同時。
頼んでいた料理が運ばれてくる。
熱々の魚介から香る良い匂い、そして、香ばしいニンニクとオイルの匂い。
お腹がペコペコだった私は、思わずゴクリと唾を飲んでしまうくらい、嗅覚から惹き付けられる。


「わぁ、美味しそうな海老!」
「パンがある。海老のアヒージョは、これに乗せて食うと美味いぞ。」
「はい。あ、トルティージャもきましたよ。焼き立てホカホカで美味しそう。」


小皿に取り分けてくれるシュラ様に甘えて、私は運ばれてくる美味しそうな料理を賞賛の眼差しで眺めていた。
見た目も香りも、本当に美味しそう。
きっと食べてみると、もっと美味しいのだろう。
普段、自分が作ったものばかりを食べているせいか、こうして外で食事をするのは、本当に楽しいし嬉しい。
それに、こうして美味しいものをいただくと、とても良い刺激になる。
もっと美味しい料理を、シュラ様に食べてもらえるように、自分も頑張らなくちゃと、そう思えるから。


「お前は、いつも美味そうに食うな、アンヌ。」
「だって、本当に美味しいのですもの。」


大好きな鯛を頬張りながらニッコリと微笑む。
そんな私を見て、シュラ様も嬉しそうに目を細め、パエリアを口に運んだ。





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