雑貨屋を出ると、一段を濃さを増した灰色の雲が、北に向かって早足に流れていた。
シュラ様と私の間を勢い良く吹き抜ける風に、少しだけ湿っぽさを感じる。


「この様子では、予想より早く降り出すかもしれん。」
「では、のんびりしていないで、早目に買物を済ましてしまいましょう。」
「あぁ、その方が賢明だ。」


それからは、洋服屋や靴屋、化粧品店などを回り、獅子宮にいる歩美さんに必要なものや頼まれていたものを、キビキビと買い揃えていった。
荷物はかなり多くて重くなってしまったが、シュラ様は何も言わずに率先して荷物運びを引き受けてくれる。
私の手元にあるのは、比較的小さくて軽い紙袋ばかりだ。
嬉しいとも有難いとも思うのだが、やはり気が引けてしまうのも事実。


「私、もう少し持てますよ、シュラ様。」
「平気だ。まだ余裕がある、気にしなくて良い。大体、買物には荷物運びが必要だからな。そのために付いてきた。」
「えっ?!」


驚いた顔をして隣を歩く長身のシュラ様を見上げると、彼もまた私の反応に驚いた様子で見下ろしてくる。
ホンのちょっと目を見開いただけなのに、かなり驚いているように見えてしまうのは、彼がいつも無表情過ぎるせいだろう。
と言っても、仏頂面な彼でも、私の目には表情豊かに映り、何を考えているのか直ぐに分かるのだけれども。


「何をそんなに驚く?」
「いえ、だって、シュラ様。今朝は『デート』だと仰っていたじゃないですか。」


デートなのに荷物運びをするというのも、何だかおかしい。
それに、これだけ沢山の荷物を抱えていては、腕を組むどころか、手も繋げないだろう。
未だ、人の多いところで手を繋いで歩くのには慣れないが、デートと言うのなら、ただ買物だけして帰るのでは、ちょっと味気ない気もする。


「荷物運びを兼ねたデートだ。確かに手を繋げないのは淋しいが、今日ばかりは仕方ないだろう。」
「これでは、やっぱり『デート』じゃなくて、ただの『お遣い』ですね。」


言い方が悪かったのか、私が機嫌を損ねているように感じたのだろう。
シュラ様は口元にちょっとだけ苦い笑みを浮かべ、それから、小さく肩を竦めた。
その反動で、彼が抱えていた荷物が揺れて、カタリと音が鳴る。


「そう言うな、アンヌ。ちゃんとしたデートならば、また次の休みにでも出掛ければ良い。」


機嫌取りの言葉を言ったが早いか、背の高い彼がスッと身を屈めた、次の瞬間。
頬に柔らかで熱い感触があった。
シュラ様に素早くキスされてしまったという事を、頭で理解するより早く、身体が反応してしまったようで。
私の顔が羞恥で赤く染まった。


こんな公衆の面前でキスだなんて!
恥ずかしさを誤魔化すためにキッと睨み上げたが、彼は何処吹く風。
さっさと前を歩き出す大きな背中を、私は何も言えずに追い駆けるしか出来なかった。





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