「……アンヌ?」
「あ。ご、ごめんなさい、シュラ様。眠っていたところを……。」
「いや、構わん。」


頬に触れた感触に、何事かと思ったのだろう。
目を閉じていた筈の彼が、私の膝の上に頭を預けたままグルッと身体を上向きに回転させて、私を見上げた。
その切れ長の瞳が、驚きで見開かれている。
私は自分の取った行動が恥ずかしくなって、慌てて耳掻きを再開しようとした。
だが、私の動作よりもシュラ様の方が一歩早かった。


耳掻き棒を持った手の手首を捉えられ、ハッとした時には既に遅く、彼の反対の手が私の後頭部に伸びていた。
そのままガッシリと頭頂部を固定されて、力強く引き寄せられる。


「んっ!」


引き寄せられた頭は、そのままシュラ様の顔に重なった。
まるで私の方からキスしているかのように身体を屈めて、自分の膝の上にある彼と深い深い口付けを交わす。
逃れたくても、押さえる手の強さには勝てなくて、私の頭を包み込むようにガッシリと引き寄せる大きな手を憎らしく思ったのも束の間。
直ぐに口内に侵入してきた貪欲な舌の動きに翻弄されて、思考する事すら困難になった。


「ふっ……、あ、は……。」


呼吸が出来なくて、苦しい……。
でも、その苦しさが何とも言えない快感へと変換されていく不思議。
抉じ開けられて、進入されて、探られて。
彼の好きにされて、でも、そこから与えられる刺激が、全身の力を奪う程に心地良い。


「は、あ、あぁ……。」


気付けば、シュラ様の端整な顔を目の前に見上げていた。
その顔の後ろから、眩しいライトの灯りが照らしている。
あれ、いつの間に体勢が変わったのだろう?
背には革張りのソファーの柔らかな感触、そして、身体には私を押え付けて圧し掛かるシュラ様の体重を感じる。
口付けを交わしている間に、彼に組み敷かれていたなんて、全然、気付いていなかった。


「アンヌ……。」


スッと、シュラ様の熱い手が、頬から首、肩へと滑り落ちた。
ブルリ、快感に震える身体。
でも、その瞬間、私は我に返っていた。


「だ、駄目……。駄目、です、シュラ様……。」
「この状況で止めろと言うのか?」
「で、でも……。」


さっきは私の気持ちを最優先すると、我慢すると仰ってくれたじゃないですか。
なのに、こんな直ぐに、その約束を破ると言うの?


「今、まさに我慢の限界が来たと、そう言ったら?」
「っ?!」


迂闊にも私が頬にキスなんてしてしまったから、シュラ様の我慢が臨界点を突破してしまったと、そういう事なの?
だったら、悪いのは煽った私だ。
だけど……。


「フッ、冗談だ。まだ我慢出来る。安心しろ。」
「し、シュラ様……。」


いつもの軽い笑みを浮かべて私の上から身体を退かした彼は、そのまま私の身体も起き上がらせると、先程と向きを変えて、また膝の上に頭を預け、横になった。
何事もなかったかのように耳掻きの再開を促したシュラ様に、私はただ呆然とするしかなかった。





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