4.二日目@



翌朝。
私は目覚ましの鳴る五分前に、目が覚めた。
新たな宮に移って気が張っていたから、疲れ果てて起きられないかと思っていたけれど、身に染み付いた習慣というのは不思議だ。
普段と全く同じ時間に目が覚めるのだから。
これも女官の習性なのかしらと思いつつ、部屋に備え付けの狭いシャワールームでさっぱり汗を流してから、ビシッと身支度を整えた。


時計を見上げれば、巨蟹宮に勤めていた頃に、仕事を始めていたのと変わりないくらいの時間。
デスマスク様といえば、いつも朝は酷く低血圧で、全く起きてくれなかった。
毎朝、叩き起こすのに、どれだけ苦労した事か、一昨日までの朝の格闘を思い出して、溜息が零れそうになる。
そして、昨日のぼんやりとしたシュラ様の様子から推測するに、彼も低血圧なのではないかと思えてならず、折角、抑え込んだ筈の溜息が、また零れそうになった。


――コンコンッ!


まずは控えめなノック。
だが、シュラ様の寝室からは何の物音もしない。
やはり彼もデスマスク様と同じ人種だったのかと、一瞬だけ痛む額を押さえると、次いで勢い良く扉を叩いた。


――ドンドンドンッ!


「シュラ様ー! 朝ですよ、起きて下さい! シュラ様っ!」


一旦、ノックする手を止め、反応をみる。
だが、シーンと静まり返った部屋の中からは、やはり何も聞こえてこなかった。


こうなったら、デスマスク様と同じ『目覚ましコース』だわ!
黄金聖闘士様だからといって、遠慮なんてしていられない。
この私がいながら、宮主が執務に遅刻だなんて、そんな事は絶対にさせないんだから!


「シュラ様、入りますよ! 起きてくだ――、あ、あれ?」


寝室の中は、もぬけの空だった。
だが、ベッドは激しく寝乱れたままで、シュラ様がそこで就寝していた事は明白な事実だ。
部屋の中を見回せば、床には昨日、彼が身に着けていたTシャツとハーフパンツ、そして下着も脱ぎっ放しの状態で散乱していた。
あぁ、これが毎日、積もり積もって重なっていき、『アレ』な状態になるんですね、理解しました。
そう思いながら、宮付き女官の習性か、無意識の内にシーツを剥ぎ取り、完璧なベッドメークを施し、散乱した衣服を拾い集めながら部屋を出る。
浴室に運んだシーツと衣類を、洗濯機の中に次々と放り込み、洗濯開始ボタンを押しかけて、ふと気付いた。


昨日、お茶の時間の会話の中で、シュラ様は『日課のトレーニングなら、朝のうちに済ませた。』と言っていなかったかしら。
という事は、今朝も私が起き出すより、ずっと早くに起きて、トレーニングへと出て行ったのだろう。
昨日のボケボケとした彼の様子が、あまりに強烈に印象に残っていたから、まだ寝ているのだと勝手に思い込んでいたけど、違ったんだわ。


トレーニングも執務や任務と同じ、やらなければいけない事はキッチリとやり通す。
聖闘士として一日に必要な最小限のトレーニングだけは欠かさない、そういう人なんだ、シュラ様は。
必要な事と、そうではない事、そのスイッチの切り替えが激しいのね。
昨日、私が見ていたのはオフの方のシュラ様であって、それが全てではないという事。
一日が過ぎてから、やっと分かった。


そして、トレーニングに行ったのなら、まだ洗濯物が増えるのだろうと思い至り、洗濯機のボタンは押さないままで、私は浴室からキッチンに向かった。





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