シュラ様に手を引かれ、彼の寝室へ移動する。
お掃除やらベッドメイクやらで、普段から何度も入っているお部屋だけど、こうして改まって部屋の中を見回すと、彼の気配というのだろうか、そういう雰囲気がヒシヒシと感じられる。
多分、部屋に染み付いたシュラ様の匂いや、彼の好む色や、家具の配置などが、そう感じさせるのだろう。
何も考えずに入った時とは違い、今はそれ等を嫌と言う程に意識してしまっている。


「アンヌ、先にベッドに入っててくれ。」
「あ、は、はい……。」


言われるがまま、私はベッドに身体を預けた。
足首近くまである長い夜着の裾を軽くたくし上げてベッドに乗ると、夏用の薄物の上掛けを捲くって、その中に滑り込む。
そして、その上掛けを首元まで引き上げて、自分の身体を中に隠した。


実は自分の部屋で用意していた時、最初は上下に分かれた前ボタンのパジャマを着ようかと、クローゼットの中を少しだけ引っ掻き回した私。
でも、結局は、いつもの就寝スタイルに落ち着いた。
シュラ様の横で眠るとなれば、きっと緊張してなかなか眠れないだろう。
だったら、慣れぬものを身に着けているよりは、着慣れたものの方が少しは楽に休める、そう思い至ったのだ。


今、着ている夜着はノースリーブタイプの、足首までストンと長い一枚物の形で、肩や首、鎖骨も露わになっている。
もし、夜中にシュラ様が野獣と化した時、この夜着は彼にとっては非常に脱がし易いだろう。
足元の裾を掴んで引き上げ、頭から引き抜いてしまえば、後はショーツ一枚だけになってしまう。
それを思うと、上下に分かれたパジャマならば、ボタンを外す手間も掛かるし(実際にそうなった時には、引き千切られそうな気がするけれど)、上と下を別々に脱がさなければいけないという面倒臭さもある。
モタモタしているその間に、もしかしたら上手い事、逃れられる隙が出来るかもしれない。


それでも、私はいつもの自分のスタイルのままでいようと決めた。
シュラ様を百パーセント信じている訳ではないけれど、寧ろ、八十パーセント以上の確立で信用していないけれど、彼が私との『恋人らしい時間』を望んでいるのであれば、普段の私、私らしい私で接したいと思ったから。
このスタイルでは、襲われたら逃げるのは難しくなるかもしれないけれど、何と言うか、どっちにしても結果は同じような気もするし、だったら、無駄な抵抗は、本当にタダの無駄でしかないもの。


「灯りを消すぞ。」
「はい。」


部屋の灯りが消える。
スッと暗闇に包まれた部屋の中、まだベッドには入ってこないシュラ様。
私は闇の中に立つ彼の姿を、ベッドに横になったまま言葉もなく眺めていた。





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