「そんなに俺は信用ないのか?」
「はぁ……。ご自分の胸に手を当てて、良く考えてみれば分かると思いますけど。」
「……全く心当たりが思い浮かばん。」


シュラ様ったら、ご自分の記憶も都合の良いように変わっているんですね、きっと!
寝室に連れ込んだり、寝ている私の服を脱がしたり、酔っ払って押し倒してきたり、色々とあったじゃないですか、いっぱい、たくさん、山程!


「兎に角、誓ってお前に手は出さん。だから、せめて同じベッドで眠るくらいは良いだろ。」
「しかしですね……。」
「アテナに誓っても良い。アンヌの意思を無視して、無理に襲ったりはしない。」
「で、でも……。」


確かにシュラ様の我慢強さは、素晴らしいものがあると思います。
私だって、良く分かっている。
でも、だからと言って、同じベッドの中、密着して眠るという、そんな際どい状況で、ですよ。
シュラ様が本当に耐え切れるのかと思えば、それは流石に信用し切れないと言うか……。


「良し、決定だな。今夜のアンヌの寝床は、俺のベッドの上だ。」
「えっ?! ちょ、ちょっと! し、シュラ様っ?!」


結局は、私がまごついている間に、勝手且つ強引に決められてしまった。
ど、どうしよう……。
シュラ様は信用しろと仰っているけれど、本当に信頼して委ねてしまっても良いものなのかしら。
私は、すっかりご満悦の様子で雑誌を捲り出したシュラ様を横目で眺め、勝手に決め込んだ彼を、恨めしく思ったり、腹立たしく思ったりした。


その後。
一日の家事を終え、自分の部屋に戻った私は、熱いシャワーを浴びて、何とか心を落ち着かせようと試みた。
だけど、不安と緊張の狭間にある私の心は、やはり正直で。
バクバクと心臓は高鳴り、無意識に小さい溜息を何度も零し、スキンケアを施す手が小刻みに震えたりしていた。


やだ。
これじゃ、これから起こる事に対して、『期待』しているみたいじゃないの。
そうなって欲しくないのに、そうなって欲しいと思っているよう。
そんな風におかしな反応を示す自分の身体に、少しだけ嫌気が差す。


私の本当の気持ちは、どっちなのだろう?
勿論、こうして恋人同士になれたのだし、シュラ様に抱かれたい気持ちはある。
いつかは、ちゃんと彼と向き合って、そして、しっかりと愛を交し合いたい。


でも、まだ今は……。
やはり怖いという気持ちの方が強い。
どんなにシュラ様が努力してくださっても、少しずつしか前へ進めない程度に、私の中の過去のトラウマは大きいようだ。


「はぁ……。」


緊張から零れていた小さな溜息が、自分の不甲斐なさを呪う大きな溜息に変わる。
だが、いつまでも、そうして無生産な事ばかりを考えていても駄目よね。
私は鏡の前から立ち上がると、身体に捲いていたバスタオルを外し、白く柔らかい夜着を頭からスッポリと被って纏った。


それと、ほぼ同時。
部屋の扉をノックする、軽い音が響いた。





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