「戻ったぞ。」
「お帰りなさい、シュラ様。丁度、ランチが出来上がったところです。温かいうちに、どうぞ。」
「あぁ、すまない、アンヌ。」
険しい顔をして部屋に入ってきたシュラ様は、キッチンから現れた私の顔を見て、何か物言いたげな様子だった。
だが、絶妙な茹で加減のパスタを早く食べて貰いたいとの思いでいっぱいの私は、彼のそんな様子は見て見ぬ振りをして、その背をダイニングへと押し遣った。
――ぐうぅぅぅ……。
ダイニングテーブルに並べられたランチを目にした瞬間、シュラ様のお腹が派手に鳴る。
視覚で食べ物を捉え、嗅覚で食事の良い匂いを嗅ぎ、忘れていた空腹感を思い出したのだろう。
言いたい事など何処かへ飛んでしまったかのように、目がテーブルの上に釘付けになっている。
そんな彼の表情を見上げ、私は思わずクスッと笑ってしまった。
「結局、今朝は朝食抜きでしたから、お腹、空いてますでしょ? さ、早く食べてください。」
「あ、あぁ……。」
目はパスタに釘付けのまま、フォークを手に取るシュラ様。
たっぷりと掛けられたミートソースの真ん中、薄い白身の膜に覆われた黄身にフォークを突き刺す。
途端にプルリと震えながら広がっていく半熟卵は、パスタにトロリと明るい色を添え、視覚からの食欲を更に増幅させた。
フワリと上がる湯気の中に、柔らかでいて濃厚な卵黄の香りが混じる。
ゴクリ、大きく上下するシュラ様の喉。
「……美味そうだ。」
「だと良いんですけど。何せ急ごしらえなので、味はあまり保証出来ません。」
苦い笑いを浮かべる私の目の前、颯爽とフォークで掬ったパスタを口に含む。
一噛み、二噛み……。
何度も咀嚼して、じっくりと味わう。
それから、ゴクリと飲み込む。
それも、ただ喉を通るのではなく、最後まで味わいながら飲み込んでいるかのよう。
「……美味い。うん、これは美味いな。」
「良かった。シュラ様に気に入っていただけたようで。」
私もパスタをフォークに絡め、口に運ぶ。
うん、急いで用意した割には、上々の出来栄え、味、茹で加減。
パスタに関しては、デスマスク様に厳しく仕込まれたから、そこそこの自信はあったけれど、これならお客様にも胸を張って出せるわ。
兎に角、お腹が減っていた私達は、暫くは無言で食事を続けた。
だからと言って、慌てて掻き込むのではなく、一品一品を噛み締め、堪能して、オレンジの最後の一切れまで、たっぷりと味わう事を楽しんで。
そうして、やっとお皿が綺麗に空っぽになった後。
食後の紅茶を一口、啜り終えたシュラ様が、おもむろに口を開いた。
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