その夜。
私はまだ少し埃っぽい自室のベッドに疲れた身体を横たえながら、ホッと大きく息を吐いた。
それは、今日一日の仕事を終えた今、この磨羯宮での仕事も、シュラ様とも、どうやら上手くやっていけそうだという手応えを感じての安堵の溜息なのかもしれない。
長く宮付き女官の仕事をしているとはいえ、巨蟹宮以外の宮と宮主に仕えるのは初めての事。
自身の仕事には絶対の自信がある私でも、やはりそれなりの不安はあった。


シュラ様は、お茶の時間にあんなに沢山のクッキーを食べたにも係わらず、夕食もキッチリと残さず食べてくれた。
どうやら好き嫌いは一切ないようで、私が作った料理は、今のところ全て美味しいと言ってくださっている。
食事に関しては必ず一つ二つは文句を吐けるデスマスク様と違い、作り甲斐があると言うか、正直に言って、やはり嬉しい。
味の好みが合うというのは、同じ屋根の下で生活していく上で大切だもの。
美味しいと言ってくれる人のために作ると思えば、面倒で手間の掛かるお料理も、楽しく感じられるから。


その後、シュラ様は入浴を済ませ、就寝前に少しだけお酒を嗜んだ後、それまでチビチビと読んでいたカミュ様から借りた本をテーブルの上に置きっ放しで、そそくさと寝室へ消えていった。
隠しもせずに大きな欠伸をして、そのクールで端整な顔を思いっきり崩していたから、途中で眠たくなったのだろう、きっと。
結局、明日には、まだこの本を返せないんだわ。
そう思いながらテーブルの上を片付けていると、寝室に引っ込んだ筈のシュラ様が再び現れた。


「アンヌ。」
「はい、何ですか?」
「綺麗なベッドの上だと、寝心地も良い。俺のベッドは、あんなに大きかったのだな。」
「はぁ、そうですか……。」


意味が分からずポカンとする私を残して、シュラ様はその言葉だけを告げて満足したのか、またそそくさと寝室に消えていった。
パタンと閉じられた扉の音が聞こえてから、ハッとする私。


そうか、今まで脱ぎっ放しの衣服やら、適当に積み上げられて置かれていた物やらで埋まっていたベッドだもの。
そんなところに寝ていたから、あまり寝心地は良くなかったのかもしれない。
それを全部片付けて、寝具も新しいものに取り替えたから、ベッドの上が広々とした寝心地の良い場所に変わったのだ。
午前中にお昼寝していた時、シュラ様ってば、とっても気持ち良さそうに寝ていたものね。
汗臭い洗濯物に埋もれて眠るより、サラッと肌触りの良いシーツの上で寝る方が、数百倍は心地良いに決まっている。


私は自分用の狭いシングルベッドの中で、今頃、スヤスヤと眠っているだろうシュラ様を思い浮かべ、クスリと笑った。
あのキングサイズの大きなベッドに横たわるシュラ様の枕元には、可愛い仔山羊のぬいぐるみ。
これまでは、シュラ様の印象は厳しくて冷たいイメージが強かったから、ぬいぐるみなんて激しく似合わないと思っていたけど。
実際は、傍に仔山羊のぬいぐるみが置いてあっても違和感がないくらいの可愛さがある人なんだと、今日一日を共に過ごした後の今、私は思っていた。



→第4話へ続く


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