〜第3章〜


1.平行線



色々あった飲み会から三日経っていた。
だけど、私達――、シュラ様と私、二人の生活には何の変化もなかった。


以前と同じように自己中街道を突き進む、ちょっと天然なシュラ様と、そんな彼をお世話し、陰から支える私。
お付き合いをする事になったとはいえ、日常生活に劇的な変化がある訳ではなく、事ある毎に無駄な色気を振り撒くシュラ様と、それを受けてアタフタする私の構図には全く変わりはない。


唯一つ、変化があるとすれば、私の気持ちくらいだろう。
今までは、シュラ様の仕掛けてくる誘惑的な行動に、『彼には好きな人がいるのだから』と必死になって自分の気持ちにブレーキを掛けてきたけれど、今はその必要がなくなった。
その『好きな人』は、嬉しいと言うか、恥ずかしいと言うか、信じられないと言うか、それは私であったのだから、顔も知らない彼女に対して遠慮する意味がなくなってしまった。


だから今では、シュラ様がピッタリと寄り添って座ってきても、距離を取るような事もしないし、肩を抱かれても、それを咎める事もしない。
ちゃんと恋人らしく振る舞ってはいる。
うん、振る舞っているつもり。
まぁ、恥ずかしさと、慣れない事に対しての緊張は、今でも変わりないのだけれど。


でも、やっぱり問題は、まだまだ山積みで。
それを乗り越えられなければ、本当の意味での恋人同士にはなれない。
そうは分かっているのだけれど、こればかりは、そう簡単にクリア出来るものでもなかった。


しかも、それは主に私の問題。
『主に』というより『百パーセント』私の問題で……。


「よぉ、おはようさん。悪ぃがコーヒー淹れてくれ。」
「何故、俺がお前のためにコーヒーを淹れなければならん? 自分でやれ、デスマスク。」
「ちっ。気が利かねぇなぁ、黒山羊さんはよ。」
「お前に遣う気など、端から持ち合わせてはいない。」


ここ数日。
毎朝、まるで日課のようにデスマスク様が磨羯宮に顔を出す。
私達の事を心配してなのか。
それとも、ただの冷やかしか、面白半分か。
兎に角、私達の顔を交互に見ては、あのニヤリとした笑みを浮かべてコーヒーを啜り、シュラ様をからかっては喜んでいる。
一体、何が面白いというのだろう?
私達の事など構わず、放っておいてくれれば良いのに……。


「おーおー、その不機嫌具合じゃ、昨夜も駄目だったってか? 不憫なこって、なぁ。」
「煩い、黙れ。俺はアンヌの気持ちを最優先すると、何度も言っている。別に不憫な事などない。」
「へーへー、そうですか。でもよぉ、オマエ。折角、恋人同士になったっていうのに、未だ風呂で自己処理は悲しいじゃねぇか。なぁ。」
「俺の欲求より、アンヌの気持ちの方が大事だ。」


シュラ様、なんて優しい言葉を……。
などと、感動している場合ではない。
何せ、彼とデスマスク様の会話は、シュラ様と私が『アレコレ致す』という内容なのだ。
正直、毎朝こんな話をシュラ様に振ってはニヤついているデスマスク様が、煩わしくて仕方なかった。





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