3.一日目A



暖かい日差しが差し込む中での、午後のお仕事。
私は洗い物を終えた後、まだ片付けの済んでいないダイニングのお掃除をして、それから、キッチンの清掃に取り掛かった。
他の場所に比べれば比較的綺麗だったとはいえ、やはり食事を作る場所。
私が一日の中で一番、滞在時間が長くなる場所でもあるし、やっぱり料理は清潔な場所で気持ち良く作りたいもの。
そんな思いを胸に、キッチンをピッカピカに磨き上げて満足した私は、早速とばかりにピカピカのキッチン台の上で作業を始めた。


「…………。」
「あ、シュラ様。どうかされましたか?」


三時を少し回った頃、キッチンにフラッと現れたシュラ様。
ピカピカに変貌を遂げたキッチンを驚いた顔で見回した後、ゆっくりと足を進めて私の横まで来て。
そして、小さく首を傾げつつ、オーブンを覗き込むように、その大きな身体を屈めた。


「良い匂いがする……。」
「ジンジャークッキーを作っていたんです。もう直ぐ焼き上がると思います。」


そう告げると、顔を上げたシュラ様が、パッと嬉しそうに口元を綻ばせた。
相変わらず僅かな表情の変化だけれども、やっぱりこの人は分かり易いと思う。
嬉しいとか美味しいとか、煩わしいとか面倒臭いとか、その僅かな表情の変化の中に、感情をそのままハッキリと現すのだもの。


シュラ様がジンジャークッキーをお好きなのは知っていた。
巨蟹宮でのティータイム、お茶請けに数種類のクッキーを出すと、必ずジンジャークッキーだけをシュラ様が全部食べてしまって、いつもデスマスク様が文句を言っていた。
デスマスク様がグチグチと文句を言い続ける横で、眉一つ動かさず平然とクッキーを食べ続けていたシュラ様の姿が面白くて、いつも陰から見て笑っていたのよね。


それにしても、今日のような時間のない時に簡単に作れて、かつ、シュラ様の好きなものをと思って焼いたクッキー。
こんなに喜んでもらえるだなんて、予想外だった。
分かり易いと言うか、単純なのかしら?


「焼き上がったらお持ちしますから、向こうのお部屋で待っていてください。リビングとテラス、どちらに致しますか?」
「そうだな……。テラスに持ってきてくれ。」
「分かりました。直ぐにお持ちしますね。」


十数分後。
焼き上がったクッキーと午後のお茶を乗せたトレーを手にテラスへと向かうと、シュラ様は今か今かと待ち詫びながら座っていた。
その姿を見て、クスリと笑いたくなるのを必死で堪える。
女官達は皆、シュラ様の魅力は『クールで落ち着いた雰囲気と、ストイックなのに色気のある大人っぽい表情』なのだと言うけれど。
本当の彼の魅力は、こうして時折、垣間見せる無邪気な子供っぽさなのではないのだろうか。
普段は鋭いばかりの切れ長の瞳を柔らかに綻ばせ、早速とばかりにクッキーに手を伸ばすシュラ様の姿を見つめながら、私はそう思った。





- 1/5 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -