「あれ? キミ、一人なのか?」
「おう。」
満面のニヤリ顔、とでも言ったら良いのか、デスマスク様は大層、満足そうな顔をしている。
私は声を発する事もなく、デスマスク様とアフロディーテ様を見上げていた。
「何を企んでいる、デスマスク?」
「んー? まぁ、アレだ。ちょっと耳貸せ。」
そう言うと、アフロディーテ様の耳元でボソボソと何事かを告げるデスマスク様。
勿論、その声は私には聞こえない。
チラチラと私の方を窺いながら話をする二人を、ぼんやりと眺めているしか私には出来なかった。
と――。
「え? ちょっと、何するんですか?!」
「イイから、オマエは黙って、俺について来い。」
そんな横暴な事を言いながら、デスマスク様は私の腕を引いて歩き出す。
向かう先は、先程、シュラ様と共に消えた廊下の方角。
とてつもなく嫌な予感を覚えて、私は引っ張られる腕の力に逆らい、その場で足を強く踏ん張った。
この人、絶対に何か企んでる!
思い通りになんてさせるものですか!
「テメェッ! 大人しくいう事、聞きやがれ!」
「嫌です! 絶対に、良くない事、企んでるのでしょう、デスマスク様!」
黄金聖闘士であるデスマスク様に勝てるとは思っていないけれど、これだけ嫌がったら諦めてくれるかもしれないし、お酒も入って酔っているから、上手くいけば振り切れるかもしれない。
だが、そんな私のささやかな抵抗も、後ろからついて来ていたアフロディーテ様によって見事に阻まれた。
足を踏ん張ってブレーキを掛けていた私の身体を、背後から押す力。
アフロディーテ様が楽しそうに笑みを浮かべて、私の背中を押していたのだ。
「アフロディーテ様っ?! どうして?!」
「悪いね、アンヌ。でも、こうするのが一番だと、私も思うし。」
酔ってるわ。
アフロディテー様も確実に酔っている。
じゃなきゃ、こんな傍若無人なデスマスク様の振る舞いに、手を貸すなんて有り得ないもの。
「よっと。んじゃ、後はごゆっくり。」
「二人でゆっくり話し合うと良いよ。まぁ、その前に押し倒されて、話し合いにならないかもだけど。」
連れて来られたのは、シュラ様の部屋の前だった。
そして、勢い良く扉を開けたデスマスク様に思い切り背を押されて、部屋の中へと押し込められる。
一瞬だけよろけた私だったが、直ぐに体勢を立て直して振り返り、バタンと閉じられた扉に食らい付いた。
「な、何を考えているのですかっ?! 開けてください、デスマスク様! アフロディーテ様!」
返事はない。
聞こえるのは、その場から立ち去る二つの足音。
私をこの部屋に押し込めて満足したらしく、またリビングへと戻っていったのだろう。
そして、きっと二人で酒盛りを再開するに違いない事は目に見えていた。
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