お料理の乗ったトレーを手に、キッチンを後にする。
キッチンを出る手前で一旦、足を止め、私は調理を続けている二人を振り返って見た。
あぁ、やっぱり素敵、格好良い。
料理をする後ろ姿は格別だわ、特にシュラ様。


もしデスマスク様が気を利かせて手伝いに来てくださらなければ、今、彼の隣で料理をしていたのは私なのよね。
数十分前まで勝手に夢見ていた新婚夫婦の想像だったが、結局はデスマスク様に邪魔されて、見事に消えてなくなってしまった。
まぁ、でも、もし彼が来てくれなければ、今頃は、裸(というか下着一枚)にエプロンという、とんでもない姿で料理を強行していたであろうシュラ様と、二人きりでキッチンに立たなければならなかったのだから、それはそれでデスマスク様に感謝をするべきなのかもしれないけれど。


「つか、オマエもあンな派手なパンツ履くんだな。」
「悪いか。」
「別に悪かねぇが……。」


料理を並べ終えてキッチンへと戻れば、真剣な眼差しで調理する二人の会話は、何故か下着の話。
大真面目な表情で、どうしてこんな脱力系の話をしているのでしょうか、この人達は?
彼等の会話の断片が耳に飛び込み、思わず私が脱力しそうになる。


「アイオリアに貰った。」
「は? アイオリアぁ? オマエ以上に堅物なヤツが、派手パン? 嘘だろ?」
「アイオロスが買ってきたそうだ。」


そして、昨夜のアイオリア様との遣り取りを、大まかに話し出すシュラ様。
それを聞いていたデスマスク様の表情が、次第に怪しいものへと変わり始めているのに、私は途中で気が付いた。
案の定、話が終わった途端に、先程よりも、もっとあからさまなニヤリ笑顔で私に近付いてくる。


「ふ〜ん……。アンヌ、相変わらずだな、オマエ。」
「な、何の話ですか?」
「あンま焦らすと、暴走しかねねぇぞ、あの純情猫。」
「じ、焦らしてなどいませんっ!」


下手に言い返したら逆効果だと分かっていながら、ついムキになって反論をしてしまった私を、更にニヤリ笑顔を深めて見下ろしてくるデスマスク様。
ものっ凄い憎らしいんですけど、その笑顔!


「アレ? オマエ、もしかして珍しく気が付いてンのか?」
「そ、それは……。」
「おいおい。まさか、もう告られちゃったとか? アイツ、確か今日から何処かの戦地で任務だとか言ってたからな。出て行く前に、愛しのアンヌちゃんに一世一代の大告白をしてったってかぁ。」
「そ、それはまだ、戻って来てからの話で――。」


――ガシャンッ!!


私の言葉が終わるか終わらないかの内に、大きな音がキッチンに響いた。
音のした方を振り返れば、シュラ様が盛り付けをしようと手にしていた大皿を、床に落としてしまったらしい。
幸い分厚く頑丈なお皿だったので割れる事も、ヒビが入る事もなかったのだが……。


「おーおー、黒山羊ちゃんも取り乱しちゃって。大変なこって。」
「手が滑っただけだ。」
「ほぉ、オマエがねぇ?」


ワザと相手の感情を煽る物言い、本当に腹が立つ事といったら!
そんなデスマスク様のニヤリ笑顔に向けて、拾った大皿をビシッと突き付けると、シュラ様は食器棚から新たに取り出した別のお皿に、出来立ての海老のアヒージョを盛り付け出した。





- 7/8 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -