スペイン人は甘い物を好むと良く聞くけれど、どうやらシュラ様も顔に似合わず甘い物がお好きだったみたい。
好みをまだ把握出来ていないので、比較的甘めに作っておいたレモンゼリー。
それを、あっと言う間にペロリと食べてしまわれた。
それでも、まだ食べ足りなさそうな様子だったので、余分に作っておいたゼリーを運んでくると、また嬉しそうにスプーンを口に運んでいる。
こう言っては怒られそうだけど、何だか可愛い。
凄く可愛らしい。


「アンヌは気が利く。」
「そう……、でしょうか?」
「デザートまで出てくるとは思ってなかった。」


デスマスク様のところにいた頃は、デザートやフルーツを出すのは当たり前だったし、食後のお茶だって用意していて当然だった。
それが女官としての仕事だもの、『気が利く』事をしているだなんて思ってもみなかった。


「シュラ様、今まで女官を雇った事はなかったのですか?」
「面倒だからな。」


出た、面倒。
シュラ様の口癖。
でも、女官が面倒って、そんな事はないと思うけれど……。


料理も掃除も洗濯も、家事は何でもやってもらえるし、宮費の管理などの生活の面倒事も、全部任せっ放しに出来る。
余計な家事労働に労力を割く必要がなくなる分、それだけ快適に生活出来るなら、黄金聖闘士様にとっては煩わしさが減るというもの。
だから、どの宮でも殆どは女官や従者を雇っているし、そうではない宮では、恋人さんがその代わりを勤めている。
例外はムウ様とカミュ様だけれど、このお二人は聖域にはあまり居る事がないから問題ないのだろう。


「面倒ですか? 女官がいる事が?」
「まぁ『女官が』と言うよりは、『女が』と言った方が当たっている。」
「そうでしょうか?」
「あぁ。アンヌのように仕事に集中してくれれば良いのだがな。執務の邪魔をするように話し掛けてきたり、話し掛けてはこないが、遠くでキャーキャー騒がしかったり、ジッと変な目で見ていたり……。兎に角、あれは煩わしいだけだ。」


あ、それは分かる気がする。
教皇宮に勤める女の子達(特に女官達)は皆が皆、黄金聖闘士様に熱い視線を送っているもの。
機会を窺っては、黄金聖闘士様とお近付きになる事ばかり考えている。
教皇宮に勤めていた頃は、そんな彼女達を横目で見つつ、いつも「仕事しろ!」って心の中で思っていた。
でも、『仕事よりも恋』と思っている女の子は、圧倒的に多い。
私は、どちらかといえば絶滅危惧種みたいなもの、彼女達には『仕事一辺倒な変わった女』だと思われていただろう。
だから、教皇宮でのお仕事は嫌いだった。
事務仕事も嫌いだったけど、ああいう女の子達の中にいるのが何よりも嫌だった。


「私なら、良いのですか?」
「アンヌなら俺の邪魔はしないだろう。巨蟹宮での仕事振りを見てて思った。」
「ありがとうございます。女官冥利に尽きます。」


宮付き女官というのは、普段、他の人の目に触れない仕事だけに、正当に評価される事は少ない。
どうせ誰にでも出来る家事仕事を適当にこなしているのだろう、そう思われがちで、私達の大変さなんてあまり知られていないだ。
でも、自分の気付かぬところで、こうしてデスマスク様以外の人にも評価されていた。
どうやら女性に厳しいシュラ様が、私の仕事振りを見て、評価して、そして、雇うと決めてくれた。
それが、とても嬉しく、光栄だと思えた。





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