三日後、か……。


三日経ってアイオリア様が戻って来た時、私は彼の話に何と答えれば良いのだろう?
いや、答えは『NO』で決まっている。
心に想う人がありながら、別の人からの告白を受け入れる訳にはいかないもの。
でも、ただ何も言わずに断る事は出来ない。
明白な理由を告げなければ、きっと彼は理解してくれないだろう。


シュラ様が好きなんですと、そう伝えなければならないだろうか?
出来れば、この想いは私だけの胸に閉じ込めておきたかった。
そっと心の奥に隠し、シュラ様が例の彼女との恋を成就させた時には、ひっそりと一人、破れた恋に泣いて。
そしてそれから、笑って思い出にしてしまいたいと、そう思っていた。


でも、私には自分の正直な気持ちを伝える以外、アイオリア様に向ける言葉がない。
彼が真剣に想いを伝えてくれるのなら、嘘の理由を告げて断るなんて、とても出来ないもの。
だけど、シュラ様に好きな方がいるというのは有名な話のようだし。
もし、アイオリア様もそれを知っていて、「アイツには好きな女がいるのだから、諦めて俺のところへ来い。」と言われてしまったら、その時はどうすれば良いのだろう?


あぁ、駄目だ。
考えれば考える程、深みにはまってしまう。
こういうのを思考の海に溺れると言うのだろうか?
兎に角、悪い方へ悪い方へと考えが流れてしまう。


私は溜息を吐いて、目の前のランチプレートを眺めた。
お皿の中身は、まるで減っていない。
今日は久し振りに、一人きりの昼食だった。
シュラ様は聖闘士候補生達を引き連れ、海岸まで行っている。
そこで、自力で食料を調達し、調理して食べる方法までも教えるのだそうだ。
だから、今日は珍しく磨羯宮へ戻って来ない事になっていた。


やっぱり、シュラ様がいないと寂しい気持ちになる。
当たり前に傍にいて、いつも無駄に私の心をドキドキと掻き乱すばかりの彼だけれど、それでも好きだから傍にいて欲しいし、傍にいたいと思う。
これは恋する女の子なら、誰しも思う事だろう。
いつも傍に居る分、こうして彼が居ない時の、その消失感は大きいもの。
それを改めて思い知らされる。


もし、シュラ様がアイオリア様のように数日間の外地任務に出る事になったなら――。


この宮に来て、約二ヶ月半。
その間、シュラ様が長期の外地任務に当たる事はなかった。
でも、彼は黄金聖闘士だもの、いつかはその任務が回ってくるのは確実。
その時、私は、どう思うのだろうか?


きっと、シュラ様のいない間は、抜け殻のようになってしまうに違いない。
食事もロクに喉を通らず、仕事も手に付かないだろう。
シュラ様が無事に帰ってくるか、そればかりが心配で、夜もあまり眠れないかもしれない。


そこまで考えて、ハッと我に返る。
今はアイオリア様への返答を考えなければならないのに、いつの間にか、シュラ様の事を考えてしまっている自分。
どんな時でも、どんな事でも、シュラ様へと変換してしまう自分に苦い笑いを浮かべて、やはり私はシュラ様が好きなのだと、改めて気付いた。



→第8話に続く


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