「アンヌ、居るか?」


シュラ様が出掛けてから三十分も経たない頃。
予想通り、アイオリア様が昨日のお洋服の入った紙袋を手に、磨羯宮を訪ねて来た。
慌てて入口へと向かった私は、彼の姿を見た途端、驚きで立ち止まり、目を見開く。


「黄金聖衣……。アイオリア様、これから任務なのですか?」


そこにいたのは、眩く輝く金色の聖衣を纏ったアイオリア様。
その凛々しさに思わず見惚れてしまう。
普段のラフな服装でも十分に格好良いのに、黄金聖衣姿は格別だ。
シュラ様もそうだけれど、威厳と言うか、聖衣を纏っているだけで圧倒的な威圧感すら感じられる。
これまで遠くから眺める事はあっても、こんな近くで目の当たりにするのは、シュラ様とデスマスク様以外では初めての事。


「あぁ、今日から三日程、外地任務だ。」
「戦闘も……、あるのですか?」
「多分、避けられないだろう。」
「そうですか……。どうぞお気を付けて。」


顔を上げれば、ジッとコチラを見つめていたアイオリア様の熱い眼差しと目が合う。
刹那、先程のシュラ様の言葉を思い出し、ハッとした。
こういう態度が、彼に期待を持たせているという事になるのだろうか……。


「これ、昨日の服だ。もう乾いていると思う。」
「お洗濯してくださったんですね。そのようなお気遣い、無用でしたのに。」
「借りっ放しという訳にもいかんだろう。それとこれは……、例の『アレ』だ。」
「例のアレ?」
「昨日、シュラが欲しがっていた……、まぁ、アレだ。」


手渡された紙袋の中を覗くと、まだ未開封のパッケージが一つ。
その透明なケースから見える、この毒々しい紫色は……。


「あぁ、話に出ていた下着ですね。派手な模様だとは聞いてましたが、本当にこれは凄い色。」
「全く……。こんなモノを買ってくるなんて、兄さんの気が知れない。」


そう言って、やや赤らんだ顔に苦笑いを浮かべるアイオリア様。
威厳ある黄金聖衣には、あまり似つかわしくない表情に、私も思わず苦笑する。


……と、不意に伸びて来た彼の手が、私の右頬を優しく包んだ。
ビクリと身体を震わせて見上げれば、熱を含んだ緑の双眸がジッと私を見下ろしていた。


「アンヌ……。任務から戻ったら話がある。大事な話だ。」
「アイオリア、様……?」


皆から鈍い鈍いと言われる私でも、それが何の話であるのかは十分に見当が付いた。
だけど、私は目を見開くばかりで、何も言えなくなってしまう。
頭の中では、「あまり期待を持たせるな。」と言っていた、シュラ様の声だけが、終わりなくグルグルと回っていた。


「じゃあ、アンヌ。行って来る。」


シュラ様と同じ言葉を残して立ち去るアイオリア様。
白いマントを翻し、颯爽と十二宮の階段を下りていく後ろ姿を、私は呆然と見つめているしか出来なかった。





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