丁度、右耳のお掃除が終わりに近付いた頃。
前触れもなく、突然、リビングの扉が勢い良く開かれた。
次いで、「ドゴン!」と何かが床に落ちる派手な音が響く。


「な……、なな、何をしているんだっ?!」
「ん?」
「あ、アイオリア様。こんにちは。」


開いた扉の向こうには、どうしてか肩をワナワナと震わせ、目を尖らせてコチラを見る、というか睨み付けているアイオリア様の姿があった。
腕から滑り落ちたのであろう紙袋は床の上に倒れ、中から美味しそうに艶々としたオレンジがコロコロと転がり出てきている。


「えっと……。耳掻きですけれど、シュラ様の。」
「そ、そんな事は見て分かる! そうではなくて――。」
「煩いな。折角、気持ち良く寝ていたというのに。」


どうやら、この騒音とアイオリア様の怒声で目が覚めてしまったらしいシュラ様が、それまで閉じていた目をパッチリと開き、扉の前に立ち竦むアイオリア様を睨み付けた、らしい。
ただでさえ鋭い目付きが、寝起きのせいで余計に鋭くなり、流石のアイオリア様も多少、怯んだようで。
「うっ!」と詰まった声が響いた。


「アンヌの見舞いにでも来たのか?」
「そっ、そうだ! なのに、ドアを開けてみれば、その彼女の膝の上に、お前が寝そべっているとは、どういう事だ、シュラ?! な、何というハレンチな!」


あぁ、そうか。
アイオリア様、私がまだ回復せずにベッドに寝ていると思っていたんだわ。
だから、病人である筈の私に、耳掃除をさせているシュラ様の姿を見て、怒ったのね。
それにシュラ様の今の格好と言ったら、先程、耳掻き棒を取りに行った時にハーフパンツは履いてきたものの、未だ上半身は裸のまま。
そんな姿で私の膝に寝そべっているんだもの、アイオリア様がハレンチだと言うのも頷ける。


「心配しないでください、アイオリア様。見ての通り、すっかり良くなりました。ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。」
「あ、いや、良いんだ、アンヌが元気になったのであれば。しかしだな、これはちょっと……。」
「耳掻きくらいで、どうこう言うなど青いぞ。それとも羨ましいのか、アイオリア?」
「うっ、羨ましいとか、そういう問題、では……、ない訳では……、なくて、だな……。」


言葉尻がゴニョゴニョと呟きに変わり、良く聞き取れない。
もしやアイオリア様、本当に羨ましかったのだろうか。
何だか顔を赤く染めて俯き、手をモジモジと動かしている。


それでしたら――。


「アイオリア様にも致しましょうか、耳掻き。」
「え? えぇっ?!」
「昨日のお礼もありますし、こんな事で良ければですけど。」
「良いのか?! 本当かっ?!」


目を輝かせ、身を前に乗り出したアイオリア様は、その顔が真っ赤だった。
あぁ、とっても嬉しいんですね。
その表情だけで伝わります、物凄く。


だが――。


「駄目だ。」
「え?」
「は?」
「アンヌの雇い主として、それは許さん。礼なら他の事にしろ。」


突然、私の膝からガバリと上半身を起き上がらせ、シュラ様がその提案を却下する。
有無を言わせない強い調子に、アイオリア様も私も呆然として、その顔を眺めている間。
シュラ様は強い反対の言葉を吐いた事で満足したのか、再び、私の膝の上にゴロリと横になった。





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