5.膝枕



「動かないでくださいね。」
「分かっている。」
「痛かったら、直ぐそうと伝えてください。」
「あぁ。」


私は耳の直ぐ上辺りの髪の毛に手を添え、恐る恐る耳掻き棒を滑り込ませた。
男の人の耳掻きをするなんて、一体、いつ振りだろう。
前の恋人と別れてからだから、多分、六年振りくらい、かな?
正直、久し振り過ぎて怖いというか、手元が震えてしまう。


「……アンヌ、擽ったい。」
「あ、す、すみません。もうちょっと強くしても良いですか?」
「そうしてくれ。」


やはり慎重過ぎたせいか、こそばゆかったのだろう。
シュラ様が膝の上で肩を竦めて身を縮めたのを見て、少し慌ててしまう。
でも、漸く感覚を思い出してきたし。
これで、もう大丈夫、かな。


それにしても……。


「シュラ様。ずっと耳のお掃除してなかったんですか?」
「ん?」


吃驚する程、耳垢が溜まってるんですけれ」ど……。
良くこれでトレーニングとか修練とか演習の時に、問題なく行えたものだわ。
聴覚は聖闘士にとっては大事な感覚の筈。
聞こえが悪かったら、何かあった時に困るのはシュラ様自身だと思うけれど。


「耳掃除はあまり好きではない。それに面倒だ。」
「そういう問題ではないと思いますが……。」


幾ら何でも、そこを面倒臭がっちゃ駄目なんじゃないですか?
嫌いだとか面倒だとかで、手を抜いて良いケアではないですよね?
耳の聞こえが悪かったせいで、敵の攻撃を避け損ねたなんて、黄金聖闘士としてあってはならない事の筈。


「大丈夫だ。そこは気合があればクリア出来る。」
「その変な自信は何処から湧いてくるんですか? というよりも、気合でどうこうなる問題じゃないでしょう、シュラ様。」
「なら、アンヌが定期的に俺の耳掻きをしてくれ。自分でするのは面倒だが、アンヌがしてくれるのなら、寧ろ喜んで受ける。」


えっと……。
私、今回だけの事だと思ってたんですが、それって、これからも同じように耳掻きしてくれって意味よね?
何だかすっかりシュラ様に乗せられてしまった感がするけど、どうしよう。
まぁ、私は嬉しいから良いとしても、よくよく考えれば恋人同士でも何でもないのに、ちょっと恥ずかしいような照れ臭いような気もしないでもなくて……。


「気持ち良くなってきた。寝てても良いか?」
「あ、はい。どうぞ。」


柔らかな黒髪を手で押さえながら、シュラ様の耳の中を覗き込む。
デスマスク様の元にいた頃は、頼まれても耳掻きどころか膝枕だってした事なかった。
なのに、シュラ様が相手だと何でも許してしまうと言うか、ついついペースに飲まれてしまうと言うか。
これが惚れた弱味と言うものなのだろうか。
すっかり気を許して私の膝に頭を預けているシュラ様の耳掃除を続けながら、まるで本当に恋人同士にでもなったかのような錯覚に陥りそうだった。





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