正直、どうして良いのか分からない。
下手に動いたらシュラ様を起こしてしまうだろうし、だからと言って、何もしないでいるのも辛い。
でも、静かにしろと言われたからには、このまま人形のように黙って座ってなきゃいけないんでしょう、ね……。


あぁん、でも!
でも、でも、でも!
このままボンヤリ座っているなんて落ち着かない!


膝の上のシュラ様の事は忘れて、本でも読んでいようかしら。
と言っても、この重み、この体温。
忘れようと思っても、強烈に意識してしまって、本の内容なんて一つも頭に入ってこないのだろうけれど。


はぁ、どうしろって言うのよ……。


心の中で盛大な溜息を吐きつつ、寝息に合わせてユラユラと揺れる黒髪に手を伸ばした。
柔らかくて、気持ち良い。
膝の上に丸まる猫を撫でるように、ゆっくりゆっくり手を滑らす。
何だか、撫でている私も段々と心地良くなってきた。


あ、そうだ。


「シュラ様……。折角ですし、『耳掻き』しましょうか?」


膝枕と言えば耳掻きよね、なんて安直な考え。
シュラ様の髪を撫でながら、ふと、そんな事を思い付いた。
これといってする事もなし、丁度良いと思ったんだけど……。


――ガバッ!


「わ、シュラ様っ?!」


前触れもなく、いきなり膝の上から頭を上げたシュラ様は、数秒間、ジッと私の顔を眺めた後。
ドタドタと派手な足音を立てて、自分の寝室へと姿を消してしまった。


あ、やっぱり耳掻きは、行き過ぎだったかな。
恋人同士でもないのに、流石に、耳まで触られたくはないわよね。
余計な事、言っちゃったなぁ……。


ホンのちょっと落ち込んで俯いていると、自分の荒れた指先が目に入った。
毎日、洗い物やらお掃除やらをしているためか、私の手はこの数年、綺麗だった例(タメシ)がない。
勿論、ケアはちゃんとしているけれども、毎日、手や指や爪に触れる洗剤で潤いが奪われ、ケアをしても追い付かないのが現状。
やっぱり、こんなガサガサ指の人に、耳掻きなんてされたくないわよね、普通に考えても。


と、指先を擦り合わせながら考えていたところに、スッと影が差した。
ハッとして顔を上げれば、シュラ様がその長い腕を伸ばして何かを差し出している。
何やら分からず、取り合えず受け取ってみたが、手に乗せられた『ソレ』を見て、再びハッとした。


これ、耳掻き棒……。


手の平の上に乗った銀の耳掻き棒をボンヤリ見ている間に、再びソファーに寝転がったシュラ様が、遠慮もなく膝に頭を乗せてくる。
それは、耳掻きをしてくれと、態度で示しているのに他ならず。
私は呆然と手元の耳掻き棒と、横向きに寝そべったシュラ様の形の良い耳とを交互に眺めた。



→第5話に続く


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