「シュラ様、終わりまし……、あれ?」
寝てる。
椅子に座ったまま、頭がコックリコックリと揺れ動いている。
まるで執務をしながらでも、堂々とウトウトしている不真面目なデスマスク様にそっくりな今のシュラ様。
そんなに眠たいのなら、座ったままでいないで、ソファーでもベッドでも移動すれば良いものを。
でも、分かるわ。
こういう気持良く眠たくなってきた時って、動くのも億劫なのよね。
丁度、窓から午前の心地良い光が差し込んで、それがまた程良く眠りを誘うものだから、益々、動きたくなくなるのよ。
「シュラ様……、シュラ様。眠るならソファーに……。」
「ん……? あ、ああ……。」
腕を組んだ体勢で座っていたシュラ様は、片目だけを薄く開き、鏡越しに私を見上げた。
ドライヤーを手早く片付けていた私も、鏡越しにシュラ様を見返し、小さく微笑む。
いや、微笑むというよりは、『クスリと笑う』と言う方が当たっている。
上半身が裸のままで、ウトウトとしている彼は、本当に山羊座の黄金聖闘士様なのかと思うくらい隙だらけで、こんなに油断していて良いのかと心配になってしまう程。
ドライヤーを元の場所へと片付けて戻ってくると、丁度、シュラ様が椅子からモソモソと動き出し、ソファーへ向かってフラリと倒れ込むところだった。
半分眠った状態のためか、前屈みで移動する動作が、大きな身体をしているのに何故か小動物のようで面白くて、またも笑いが浮んでしまう。
そんな私の様子に気配で察したのだろうか。
ソファーにダイブして沈み込んだ筈のシュラ様がノソリと起き上がり、背凭れの向こう側から、私に向かって手招きをした。
一体、何だろう?
招かれるままにソファーの横へ行くと、微妙な体勢で身体を起こしたままのシュラ様が、私の手首を掴んでグイッと引っ張る。
その力で倒れそうになるのを防ぐため、思わずソファーの空いた場所に腰を沈めてしまった。
思えば、それが『狙い』だったのだ。
私がソファーに座ったと同時に、すかさず身を倒して横になるシュラ様。
勿論、ソファーは長身のシュラ様が横になればいっぱいに埋まってしまう程度の大きさしかなく、そのため必然的に彼の頭は私の膝の上に……。
つまり私は、シュラ様に『膝枕』をしている状態になってしまったという事。
「しゅ、シュラ様っ?! こ、これっ?!」
「静かにしろ。折角、心地良いんだ。」
「で、でも……。」
言葉を返したいのは山々だったが、直ぐにも聞こえてきたスースーという彼の寝息。
そして、最初は遠慮がちに乗っていた頭の重さが、次第にズッシリとしたものに変わったのを感じて、起こしてはいけないと思ってしまう自分。
自分の膝の上で揺れる柔らかな黒髪を見下ろしながら、私の身体はガッチリと固まって動けなくなってしまった。
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