シュラ様が食器を持って部屋を出て行った後、私はいつの間にか眠りに落ちていた。
まだ僅かに高い熱のせいか身体が重く、ベッドの中に吸い込まれるように寝てしまった私。
シュラ様の匂いが染み付いたベッドと寝具に包まれて眠ったせいか、私は夢の中でシュラ様に抱き締められているような感覚を覚えていた。


具合が悪くて苦しい時でも、こういう良い事もあるものなのね。
と言っても、夢の中の出来事なのだけれど。
けれど、現実ではないにしても、幸せな瞬間を体験出来るのは嬉しい。
私は眠りの世界を彷徨いながら、そんな事をうつらうつらと考えていた。


それから、どのくらい経った頃だろうか。
再び深い眠りに落ちていた私は、遠くから聞こえてくる鳥のさえずりに誘われて、ゆっくりと意識が浮上し始めた。
でも、まだ眠っていたい。
だって何だか、とても心地良いのだもの。
全身が絶対的な安心感に包まれていると言うか、兎に角、この状態から起きてしまいたくない。


そこで不意に思い出す。
そうだわ、今日はシュラ様のベッドで眠っていた筈。
だったら、ヒシヒシと感じるこの安心感は、シュラ様の匂いに包まれているからだろうか。
ならば、もう少しだけ……。


と、その瞬間。
横向きに寝ていた私の身体が、腰を中心にグイッと引っ張られる強い感覚が走る。
途端に、パッチリと目が開き、私は完全に覚醒していた。


「…………っ??!!」


開いた目に映るのは、肌色だた一色。
これは……、明らかに人の肌。
しかも、物凄い至近距離なんですけど、顔がくっ付きそうなくらいに。
綺麗に窪んだこのラインは、鎖骨……、よね?
とすると、その下に見えているのは胸の筋肉で……。


「な……!? しゅ、シュラ様っ?!」


朦朧としていた意識と視界が一気に拓け、突然、自分の置かれている状況を理解する。
私は慌てて跳ね起きた。
跳ね起きて、実際の状況と、自分の思い至った結論が間違いなく同じだと把握して、そして、同時にパニックに陥った。


「な、なななな、何でシュラ様がっ! 同じベッドに! 寝ているんですかっ?!」


ベッドの上に身を起こした私が見下ろしているもの。
それは、ついさっきまで私の隣に横になって、そして、あろう事かしっかりと私の身体を抱き締めていたシュラ様のお色気満載な寝姿だった。
いや、もう寝姿ではなく、私の上げた悲鳴に近い声に、薄っすらと瞼を開き掛けている。
お陰で、色気が数割り増しだ、ただでさえタオルケットから上の露出している上半身には何も纏っていないというのに。


「あぁ……、起きたか、アンヌ……。」
「起きたか、ではありません! ど、どういう事ですか、これは?!」


私は、まだ眠りから覚醒しきっていない、寝惚け気味のシュラ様に向かって問い詰める。
起き抜けのシュラ様は、ボーっと数秒、私を見上げてから、寝そべったまま気だるそうに前髪を掻き上げた。





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