2.そして今夜も集う



チチチチチ……。


晴天、ベールのように薄く淡く掛かった雲、眩しい朝日、鳥の声。
爽やかな朝、の筈だが、ベッドと一体化してグッタリと眠る飛鳥にとっては、朝の訪れ自体が暴力にも等しかった。
上掛けの中でモゾモゾと身体を動かし、固まった筋肉と手足をグググと伸ばす。
隣で寝ていたシュラの姿は、既にない。


「……飛鳥、起きろ。」
「うぅん……。い、や……。まだ寝るの……。」
「朝飯が出来てる。温かい内に一緒に食うぞ。」


ユサユサと肩を揺さ振られ、嫌々ながらに頭を上げる飛鳥。
ノソリと起き上がる動きはゾンビ、ゲッソリと目の下にクマを作った顔も、まるでゾンビのよう。
結局、昨夜は余り眠らせてもらえなかったのだ、ゲッソリもするだろう。
一方のシュラは、彼女と同じだけ頑張って、同じだけ寝ていない筈なのに、朝からパリッとピシッとしている不思議。
一体、どれだけの体力自慢なんだか……。


「……お味噌汁の良い匂い。」
「ワカメと玉葱の味噌汁だ。作り立てだぞ。」
「……オカズは?」
「昨日の残りの肉じゃがコロッケと、出汁巻き卵を作った。」
「食べる!」


出汁巻き卵と聞き、飛鳥は飛び跳ねるように身体を起こした。
そして、床に散乱していたシュラのブカブカのTシャツに頭を通すと、嬉々として食卓に着く。
シュラの作る出汁巻き卵が、飛鳥の大好物なのだ。
プルプルジューシーな出汁巻きの上に、真っ白な大根おろしが乗った見た目だけで、ゴクリと喉が鳴る。


「食べようよ。温かい内に、食べてしまおうよ。」
「何故にそんな格好で……。」
「朝ごはん食べたら、また寝るんだもん。着替えの時間が無駄になるでしょ。」


そう言う飛鳥は既に箸を手に持ち、出汁巻きに向けて一直線に突き進んでいる。
シュラは味噌汁をズズッと啜りながら、目をキラキラさせて出汁巻きを頬張る飛鳥を眺めた。
リスかハムスターか、小動物のような愛らしい彼女。
自然とシュラの口元が緩み、フッと笑みが零れる。


「そんなに寝てばかりで、どうする?」
「寝てばかりじゃないもん。寝不足ですからねー、誰かさんのせいで。身体中が痛んでますからねー、誰かさんのせいで。」
「……すまない。」


本気でそう思っているのかどうか分からない謝罪の言葉がシュラの唇から漏れ出たところで、飛鳥が二パッと笑った。
やはり小動物みたいだ。
小さく溜息を零したシュラは、目の前のコロッケに箸を突き刺した。
サクリ、二つに割れる音が、朝の空気に心地良く響く。


「一眠りして起きたら、お掃除して、お洗濯して、それから帰るね。」
「すまん、助かる。」
「良いの良いの。シュラは一生懸命にお仕事してきてくださいな。」
「分かった。」
「それで稼いだお金を、ウチの和菓子屋にいっぱい落としてくださいな。」
「……分かった。」


じゃ、張り切って出勤してねー、洗い物はしておくからねー。
カチャカチャと積み上げた食器をキッチンへと運んだ飛鳥が、ザーッと水を勢い良く流して洗い物を始める。


「そんな格好のままで洗い物をするのか……。」
「これだけやっちゃって、また寝るからねー。」


飛鳥が身に着けているのは、昨夜シュラが着ていた黒いTシャツ一枚だけ。
素肌に綿のTシャツ、当然、下着も着けていない。
何というエロさだ……、朝から刺激的な。
昨夜、あれだけ何度も頑張ったのに、またもや元気いっぱいになりつつある自分自身を感じ取って、シュラは欲求だらけの自分に再び溜息を零した。





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