聖域リーマン物語53
2021/05/15 02:09


「では、そろそろ我々は退散するとしようか。」
「それが良い。明日も仕事だろう? 飲兵衛のカミュは兎も角、リアは飲み過ぎのようだからね。」
「俺は、まだまだ大丈夫だぞ。」


とは言いつつも、席を立つリアとカミュ。
それと同時、店の入口からドアベルの音が響き、扉を開閉するバタンという大きな音と、次いで騒々しい足音が室内に響き渡った。
カウンターに近付いてきたのは客ではなく、見知った腐れ縁の顔。


「おかえり、デス。」
「木曜なのに、随分と人が多いな。珍しいヤツも来てるようだし、何だ、今日は?」
「偶然だよ。サガと二人で寄ってみたら、ミロが居て、そして、後からリアが来たのだ。」
「ふ〜ん。で、そのサガとミロの姿がねぇようだが?」


デスはキョロキョロと周囲を見回す。
が、店内の何処にも彼等の姿は見当たらない。
薄暗くて見落としている訳でもなさそうだが……。


「ミロが激しく酔っ払って酷かったので、サガが連れ帰ったのだ。」
「連れ帰るって、何処へ?」
「サガの家だよ。しかも、姫抱っこでね、ふふっ。」
「オイオイ、それってヤベぇンじゃねぇの?」


元より強面のデスが眉を顰め、クイッと片眉を上げると、そこにいる四人を順番に見遣った。
クスクスと笑い続けるカウンター内のディーテと、苦い笑みを浮かべるカミュとリア。
シュラは話を聞いているのか、いないのか、和菓子をモグモグする事に集中している。


「ヤバいとは、何がだ?」
「ミロのヤツ、サガの家に連れて行かれたンだろ? 今頃、風呂に沈められてンじゃねぇのか?」
「まさか。あんなに酔っ払った相手を風呂に入れるなんて、常識では有り得ないだろ。下手をしたら死ぬぞ。サガに限って、そんな事をするとは思えんが……。」
「アイツ、風呂に限れば超非常識人だぞ。絶対に無理強いしてるわ、嫌がってても無理に沈めてるわ。」
「そうだろうか……。」


***


その頃、サガの家では――。


「いやいやいや! 風呂は無理! 風呂は無理だって!」
「無理な事などない。熱い風呂に入ればサッパリして、酔いも醒める。入らぬという選択肢はないだろう。」
「いや、選択肢は有るから! 酔っ払って風呂に(しかも、激熱)入ったら、危ないから!」
「意味が分からん。」
「分かれ! 分からないなら調べろ! スマホがソコに――。」
「おっと。そんなに足元がフラついていたら転ぶぞ。早く風呂に入って、酔いを醒ましなさい。」
「止めてーー! 死ぬーー!」


――かっぽーん……。


***


「まぁ、イイや、ミロの安否など、どうでも。」
「冷たい男だな、デスは。」
「風呂魔人のサガにミロを託したオマエ等よりマシだろ。」


呆れの表情を浮かべて、デスはシュラの横のスツールにドカリと座り込んだ。
そして、カウンターの向こうのディーテに目配せを送る。
どうやら、いつものアレを出せという意味らしい。
ディーテは苦笑いを浮かべて、手際良くカクテルを作り始めた。
スッと滑るように出されたグラスの中身は、イタリアンサーファー。
パイナップル味のトロピカルなカクテルで、これがデスの、いつも頼む最初の一杯だ。
グラスに口をつけ、一口、コクリと喉を潤しながらも、デスは横目で隣のシュラをチラと眺めた。


「つーか、オマエさぁ。和菓子モグモグしながらカクテルって、おかしくねぇ?」
「和菓子は何にでも合う、万能の食べ物だ。カクテルと一緒に食っても美味い。」
「おかしいだろ……。」


ニコニコと笑うディーテとは違い、カミュとリアは既に苦笑いすら浮かべない。
先程、猫の形をした和菓子を食い尽くし、今のは二箱めだという事を、デスに教える気すら起きない二人だった。


(つづく)


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