プチフール的ご機嫌な彼女(海龍&山羊座)
2021/04/05 02:15


「はぁ。」と大きな溜息を吐きながら、十二宮の長い階段を上る。
全く……、四捨五入すれば三十になろうかという男が、何故にお遣いなど頼まれねばならんのか……。


久し振りの聖域。
実家ともいえる双児宮でノンビリ過ごした後、教皇に挨拶でもと思い、十二宮の階段を上り始めたところで、あの腹立たしい愚兄からの声。
小宇宙を使って呼び掛けてきたから、一体、何事かと思えば、磨羯宮に行って荷物を受け取ってこいとか、単なる使い走りの扱い。
俺はお前の部下でも、従者でも、召使でもないのだが?
大いにイラっとしたが、丁度、教皇宮へと向かっている事もあって、湧き上がる怒りを抑えて引き受けてやった。


「シュラ、居るか?」
「……珍しいな、カノン。お前がココに来るとは。」
「サガからの頼まれ事だ。荷物を受け取って来いと言われている。」


立ち寄った磨羯宮、声を掛けると、直ぐにシュラが顔を出した。
どうやら今日は休みだったらしい。
邪魔者が来やがったと言わんばかりに、いつもの仏頂面が、更に不機嫌な仏頂面になっている。
が、それ以上に気になるのは、部屋の奥から聞こえてくる音だ。


「酷い騒音だな。何の音だ?」
「……騒音?」


何の事やら分からぬといった様子で、コトリと横に首を傾げるシュラ。
コイツには聞こえていないのか、この凄まじいノイズが。
とんでもなく耳が悪いのか?
それとも、俺にしか聞こえない類の音なのか?


「奥から聞こえているだろう。耳触りで頭が割れそうだ。」
「……奥? あぁ、あれは飛鳥の鼻歌だ。」
「鼻歌だと? とんでもない音痴だな。騒音にしか聞こえんぞ。」
「……そうか?」


成る程、シュラにとって飛鳥の発する音は、ノイズには成り得ないのか。
『恋は盲目』と言うが、騒音レベルの音痴すら気にならない程となると、盲目レベルを超えている。
聴覚すら歪ませる恋の力、それが良い事なのかどうか、俺には分からない。


「あれ、カノンさん? お久し振りですね〜。」
「……随分とご機嫌だな、飛鳥。」


奥の部屋、多分、キッチンと思われる部屋から現れた飛鳥は、全身に甘い匂いを纏っていた。
騒音紛いの鼻歌は止まっていたが、傍目にも分かるくらいウキウキと楽しそうだった。
俺がココに立ち寄った経緯を聞いている間も、ずっとニコニコとしていて、何がそんなに楽しいのかと、思わず問い質したくなる程だ。
勿論、余計な事は聞くべきではないと、グッと言葉を飲み込んだが。


「これ、頼まれていたパウンドケーキ。カノンさんが受け取りに来てくれたのね。」
「あ、あぁ。これをサガに渡せば良いのだな?」
「はい、宜しくお願いします。」


俺に手にケーキの入った籠を押し込んで、再びキッチンへと戻っていった飛鳥。
程なくして、再開される騒音レベルの鼻歌。
横に居るシュラに遠慮せず、そっと耳を塞ぐ俺。


「何故、あんなに御機嫌なんだ、飛鳥は?」
「ピアスだ。」
「ピアス?」
「バレンタインにピアスを贈る予定だったが、一緒に出掛ける都合がつかなくてな。先日、やっと二人で選びに行く事が出来た。それ以来、ずっとあの調子だ。」


あぁ、結局は、ただのバカップルという事か。
聞いて損した、無駄な話を振ってしまったものだ。
俺は磨羯宮へと入る前に封印した溜息を解放し、これでもかと大きく嘆息した。



爆発しろ、バカップル!



(飛鳥に良く似合っているだろう、あのピアス。)
(あぁ、そうだな。)
(心が籠ってないように聞こえるが?)
(あぁ、そうだな……。)


***


三十路前には鬱陶しいだけのバカップルの、無自覚イチャイチャですw
人前で触れ合ったりは苦手なのに、こういうイチャ付きは平気なのです、ウチの山羊さまw


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