文句の一つくらい聞いてよね!
雨が降っている。
たくさん、降っている。
私は傘もささずに浜辺を裸足で歩いていて、髪の毛は頬にべちょりとくっついていた。
「風邪ひくぞ」
背後から声が聞こえた。
私を労ってくれる彼の言葉に振り返ることもせず、土砂降りの砂浜でしゃがみこんだ。
「何してるんだ」
「雨が降ってたから」
「傘は?」
「置いてきた」
鬼道さんは溜め息を吐かなかった。
そのまま、私の隣に立っている。
「どうして、」
「総帥にね、会いたかったの」
今の喋りは少しだけ鬼道さんの言葉を遮ってしまったかもしれない。
「ああ、俺もだ」
こんなにたくさんの雨粒が私の体を打ち付けているのに、海水は全く上昇していない。
少し濁った程度だろうか。
「溺れちゃいたかったの」
「死にたかったのか?」
「ううん、総帥に会いたかった」
「死んでも、総帥には会えないかもしれないぞ」
海に向かって笑って見せた。
今の私ができる最高の嘲笑で。
「生きてても、総帥には会えないよ」
どさり、傘が落ちた。
隣に居た鬼道さんが砂浜に寝転ぶ。
「汚れちゃうよ、鬼道さんっ」
「気にしないよ」
「?」
「俺も、総帥に会いたい」
「溺れちゃいたいね」
「死んじゃいたいな」
「総帥に会いたいね」
鬼道さんの手が、そっと私の手を包む。
「あー!死んでしまいたいな!」
「鬼道さん…?」
彼は大げさなくらいに笑っていて、ほっぺたには大きなしずくがたくさんこぼれていた。
泣いてるの、と聞くと、鬼道さんは微笑みながら雨だよと答えた。
気づけば私も、ほっぺにたくさんの雨をこぼしていて、鬼道さんの手をぎゅっと握り返した。
「総帥のばかー!」
「よくも俺たちをめちゃくちゃにしてくれたな!」
「佐久間にも謝れー!」
「勝手に逝くな!」
「私たち置いてくなー!!」
「帰ってきてください!!」
「ばかあ!」
「ありがとう、ございました!!!」
「大好き!ばか!う、うええん!そーすいのばかあ…!」
拭っても、拭っても顔は濡れて、どうしようもないくらい悲しくて寂しくて。
雨の中、私たち二人を探しに来てくれた明王ちゃんが、泣きじゃくる私と鬼道さんを見つけて強く抱きしめてくれた。
「全く、世話の焼けるきょーだいたちだぜ」
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