曇り空と
「マーク!気を付けなさいって言ったでしょう!」
「ご、ごめんなさい…」
「またお皿を割って…。今年に入って五枚目よ」
ドジというか、不幸というか。
俺はよく物を落として、ケガをして、怒られて。
「マークが試合にでると、いっつも雨だよ」
「もうお前、試合出るなよ!」
俺が居ると雨が降って、俺が楽しいと嵐がくる。
「マークと一緒に居ると不幸になる」という噂が流れて、俺は一人になった。
小学校でもずっと一人で、ジュニアのサッカーチームもやめた。
俺が公園に行けば、誰かがケガをする前に、と子供たちは帰っていく。
一人の公園でブランコに座り、深いため息を吐いた。
「おとなり、いいですか?」
そこに現れたのがなまえだった。
なまえは俺の隣のブランコに手を添えて、笑う。
「俺と一緒に居ると、不幸になるよ」
「あら、どうしてですか?」
ざぁ…!
突然雨が降ってきた。
先程までの真っ青な空が嘘みたいだ。
なまえの手を引いて、遊具の屋根の下に入る。
一息吐いて、なまえを見ると、なまえは驚いた顔をしていた。
「な、だから、君も…」
「……」
「え、ねえ…」
なまえは雨をじっと見つめて、俺の声に笑顔で振り返った。
「私、なまえです!あなたは?」
「俺は…マーク」
「マーク!一緒に遊びましょう!」
雨の中駆け回って、笑った。
こんなに笑ったのは久しぶりだし、一緒に他人が居るのも。
雨は段々激しさを増していった。
「なまえ!!」
突然聞こえた声に体を震わせると、公園の入り口に傘をもった女の人が立っていた。
「ママ…」
「なまえ!こんな雨の中で何をやっているの!ちゃんとベッドで寝てなくちゃ駄目って言ったでしょう!」
凄い剣幕でなまえを叱るその人は、なまえの手を引いて傘に入れると、俺を睨んだ。
「それにあなた、マーク・クルーガーね。マークくん、今後一切うちの子には会わないでちょうだい」
なまえは体が弱いようだった。
お母さんが出かける度に、ベッドを抜け出しているらしい。

‐‐‐‐‐‐


それからなまえは部屋を出れなくなった。
俺は毎日窓からなまえの部屋を覗いて、それに気が付いたなまえが窓をあけてくれた。
ある日、なまえが急激に体調を崩した。

毎日違うお医者さんがなまえの家に入っていって、出ていった。
そしてぴたりと先生は来なくなった。
なまえは亡くなったのだ。
なまえの母親は、なまえの病気が悪化したのは俺のせいだと言って罵った。
結局俺はなまえの葬式にも出れなかった。
悔しくて、悲しくて。
俺が会いに行かなければ、なまえの病気は悪化しなかったかもしれない。
俺が会いに行かなければ、なまえは死なずに済んだかもしれない。
なまえと会った公園で声をあげて泣いていると、俺のもとに一人の輝く天使か舞い降りた。
「それは違います、マーク。私がこの歳で亡くなるのは運命だったのです。何もマークが気にやむことはありませんよ」
「でも、俺のせいで…!俺のせいでなまえは!」
「泣かないで、マーク。見て、私天使になったんです。私は悲しくなんかありませんよ」
「でもっ」
なまえの手が、俺の頭に乗った。
そこからするすると手が落ちて、俺の顔を包む。
「マークが悲しまないように。マークの不幸を私が貰っていきます。だからもう泣かないで、マーク」

ふわり
体が軽くなった気がした。

‐‐‐‐‐‐

あれからぴたりと悪いことは起きなくなった。
本当になまえが俺の悪いものを持っていってくれたかのように。
俺は中学生になって、サッカーで世界に行って。
「今日からマネージャーが来てくれた。俺の友人の娘だ。仲良くするようにな」
「はい!」
「なまえ、おいで」
その名前を聞いて、思い出すのはあの子の顔。
そして、みんなの視線が集まる中、マネージャーのその子は、悲鳴をあげてつまずいた。
「きゃあ!」
もちろんそこには、何もない。
「いたた…えっと、なまえです。ドジで、皆さんに迷惑をかけちゃうかもしれませんが、どうぞよろしく…」
自己紹介が終わり、マネージャーはドリンクやらタオルやらを用意し始めた。
そこにディランがやってきて、ニヤニヤしながら言う。
「Hey、マーク!あのドジっ子マネージャーに挨拶しなくていいのかい、キャプテーン!」
ディランはなまえのキャラクターが気に入ったのか、いつも以上に上機嫌だ。
「なまえ、ちょっといいか」
「はい、なんでしょう、キャプ…うわあああ」
そして盛大にドリンクを俺に向かってぶちまけた。
一体、1日に何度転べば気がすむのだろうか。
「ごめんなさい!ごめんなさい!!」
「いや、気にしなくていいよ」
なまえが俺の体を拭くためにタオルを取りに行くと、背中を向けた。
途中でぴたりと立ち止まって、なまえが俯く。
今度はなんだと一歩なまえに近づいた時だった。
「マークが、幸せそうで良かった。また、会えたね」
雲行きが、怪しくなってきた。

お詫び企画人外/天使
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