手加減してね

穏やかな初夏の風がカーテンを揺らす。そよそよと爽やかな空気の流れが心地好い。陽の光を浴びてうたた寝をしている助手が一人。
「おお」
バッツはよく遭遇しているが、クラウドの寝顔は貴重だ。手早く携帯を片手に撮る。準備室にシャッター音が響く。
「…あれ?」
この音でも起きないなんて、うたた寝じゃなくて熟睡してるのか?よく見ると先ほどまでは穏やかな顔をしていたのに、今は心なしか苦しそうだ。
「う…ん、スコー…」
夢の中でもスコールか。相変わらずラブラブだなあと感心していると、今度は本格的にうなさる始めた。
「頼む…もう…」
夢の中でも辛くなるほど愛されてるのか。そういえば顎のラインが前より細くなった気がする。同じ大学に在籍して以前より物理的な距離は縮まったのだろう。だが近くにいる時間が増えてクラウドに群がる野郎共に心穏やかではいられない状況だ。その不安が夜の行為に顕れるのだろう。決して誰も悪くはない。悪くはないが…
「…」
バッツは準備室のドアに不在の札を掛けると内側から鍵をかけた。ほんの僅かな時間しか確保できないが、今だけはゆっくり休んで欲しい。ソファーにあった誰のか分からない膝掛けをかけてやる。微かにクラウドが微笑んだ気がした。
それから十数分、静かな時間が流れていた。バッツはソファーに座り本を読んでいた。時折クラウドの様子を確認する。さっきよりは大分顔色も良くなってきた。そろそろいいかと不在の札を回収しに出ようとした時だった。シンプルな着信音が部屋に鳴り響く。
「ん…」
クラウドが身動ぐ。ポケットから携帯を取りだし寝ぼけ眼のまま出る。
「…はい」
「せんせーっ!どこにいるっスかーっ」
携帯からのと同じ声がドアの向こうから聞こえた。電話の主はどうやらすぐ向こうにいるらしい。あんなに大きな声を耳元で聞いたというのにクラウドはまだ寝ぼけている。あー…とここがどこかを考えているようでは埒があかない。バッツはドアを開けた。
「あ、クラウド先生」
ティーダが興奮気味に入って来る。後ろには呆れ顔のスコールがいた。
「どこにもいないから探したっスよ」
「ずっとここにいたぞ」
「だって不在って!」
「それよりクラウドに用があったんじゃねえの?」
話が噛み合わない二人の間にバッツが割って入る。原因を作ったのが自分だとはいえ、ややこしくなりそうだ。
「そうそう、昼飯に行こう」
「もうそんな時間か」
クラウドが立ち上がるとかかっていた膝掛けが落ちた。首を傾げながらそれを拾い、しばらく考えてから顔を上げて微笑む。
「バッツ、ありがと」
「おう」
自然なやり取りにスコールの視線が刺さる。バッツだけはスコールの全幅の信頼を得ている。クラウドと密室で二人きりになろうが報復の対象にはならない。だが羨ましいものは羨ましいらしい。どちらかと言えば子供が無いものをねだるようなじっとりとした視線でバッツを見ていた。
「じゃあみんなで飯食いに行こうぜ」
ほれ、と一年生達を部屋から出すとクラウドが鍵をかけた。
昼に少し早い時間だったこともあり、学食は空いていた。トレイを持ってくるクラウドを見ながらティーダが一言。
「細い」
「は?」
「先生細すぎっスよ」
「そういえばベルトがゆるい気がする」
トレイをテーブルの上に置きクラウドはベルトを掴んだ。確かに隙間が空いている。
「ちゃんと食べてるっス…ね。あれ?」
ただでさえ痩せてるんだから、とトレイを見るとそこにはチャーシュー麺と牛丼が乗っていた。クラウドも食べてはいるんだが、と首を傾げている。
「燃費悪すぎ」
「そうだな」
バッツは頷くクラウドを見てからスコールを小突いた。原因となった当の本人は何かの病気だろうかと本気で心配しているが断じて病気なんかではない。原因は決まっている。
「お前がっつきすぎ。少しは加減してやれよ」
でないといつか倒れるぞと脅してやれば真面目な顔で善処するが煽るクラウドも悪いんだと返ってきた。
「覚えたてのガキじゃねぇんだからさ」
距離が近いのも良し悪しだ。特にスコールのように嫉妬深いタイプには。スコールを煽るのを少しは止めた方がいいかもしれないとバッツは携帯の秘蔵画像にロックをかけた。

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