01Q 5
「はぁあああああ〜! 恐ぇぇえええええ! あれで高1!?」
火神につままれここまで移動してきた小金井は、冷や汗だらだらも良い所で机に伸びた。声が震えている。
そこに、二つの影が近づく。
「なかなかの逸材だな」
「はっ!?」
小金井が声のした方を見ると、チラシ配りをしていた伊月に水戸部も揃って並び、人ごみの向こうに遠ざかる火神の背中をにこにこと見ているではないか。
「おまっ! 今までどこに隠れてたんだよっ!」
相当怖い思いをした小金井は、くわっと身体を起こして伊月達を責めた。
その横で、日向は思案顔で机のクリップボードを持ち上げ内容を読む。
「火神大我、中学はアメリカか。本場仕込みだな……」
「どっちにしろ、只者じゃなさそうね」
真剣な貌でリコが言った。これは、凄い戦力になるかもしれない。いや、なる。
と、その時ふと、小金井は机の上に二枚の入部届を見つけた。
「よぉ」
「ん?」
「お?」
リコと日向は火神の紙から顔を上げ、小金井を見る。
「これ、集め忘れてる入部届。二枚も」
「ああ、ゴメン」
リコは軽く謝ると二枚の紙を受け取り、まずは一枚目に目を落した。
はてさて、誰の届けだったか。
「えーっと、黒子テツヤ。あれ――?」
そして、その名前に記憶が無い事に対して、疑問を持ち、マジマジと紙を見つめる。
「ずっと机番してたのに、全く憶えてない――」
1年B組、学籍番号102153。
備考――帝光中学校 バスケットボール部
備考に書かれた文字に、一瞬自らの目を疑う。
「ん!?」
そしてそれが本当にそう書かれていると認識した時、リコは、顔色を変えた。
――もしかしてもう一枚も?
そう思い、慌てて、その下にある二枚目の紙にも目を通す。
案の定、いや、それ以上に、その紙を見てリコは貌を顰めた。
火神のそれとはまるっきり対照的な、極めて流麗な字でサラサラと、それは書かれていた。
1年C組、学籍番号103777
名前は――未記入。
備考、帝光中学校 バスケ部 1軍出身
※選手ではなくマネージャー希望
(は……? 帝光……? い、1軍……?)
リコの目がゆらゆらと揺れる。
「どうした?」
彼女の反応をじっと見ていた日向に訊かれ、リコは大きく動じた素振りを見せてから、盛大に驚きの声をあげた。
「て、帝光バスケ部出身!!!!!!!! 」
叫んだ瞬間、その場に居合わせた部員達の顔色も、リコ同様変わる。
「帝光って、あの帝光か!?」
日向は、直ぐに反応してリコの手から紙を奪い取った。
リコは、最早期待に目を輝かせて大興奮だ。
「そうよ2人ともね! しかも今年一年って事は……、キセキの世代!! それに、一方はマネ志望らしいけど、い、一軍出身よ!? 一軍!!」
「キセキの世代……、あの有名な!? でもって、え? い、一軍ッ!?」
「一軍って……、嘘だろ、なんて名前のヤツ!?」
小金井に身を乗り出す様にして聞かれ、リコはあぁ、と少し笑顔を曇らせた。
「わかんない」
「は?」
リコの言葉に、にわかに不穏な気配が忍び寄る。
が、「書き忘れ、みたい」とリコが苦笑い気味に言ったのを聞いて、小金井含む一同はコケッ、とリアクションをしてみせた。
「んだ、ドジかよ!? まあいいけど、にしても……帝光って、でもそんな奴来たか!? それか悪戯って可能性もあるけどでも学籍番号書いてあるし!!」
日向がテンションかなりあがり気味で首をかしげる横で、リコは頭を押さえて激しく悶えた。
「あ〜〜〜〜〜〜〜! なんでそんな金の卵の顔憶えてないんだ私ぃいいいい〜〜〜〜〜!?」
(さっきの奴はアメリカ帰りだし、今年、一年、ヤバい!?!?)
リコは、先程ののんびりモードとは打って変わって、今や期待に胸をめいっぱい膨らませてハイテンションになっていた。
★
一連の様子を、やはり白髪の男子新入生が桜の木の影から見守っていた。
彼は、周囲の喧騒とは壁一枚を隔てた空気を身に纏いながら、何やら叫んでいるバスケ部の面子に向けていた視線を俄かに外す。
そして、無表情の中に薄らと笑みを浮かべると、そっとその場から去った。