02Q 2
 突然の黒子の登場に、体育館にいた一同は大いに動揺していた。

「うわ、何、何時から居たの!?」

 日向も、余裕を失い慌てた声音で尋ねる。

「最初からいました」

 抑揚のない口調でスパッと言う黒子。
 彼を前にして、リコは顔いっぱいから汗が噴き出るのを感じていた。
 空いた口が塞がらない。

(目の前にいて気付かなかった!? え? 今黒子って言った? え? ていうか、影うっす!!)

 慌てた小金井と日向は、黒子に迫る。

「え!? じゃぁつまり、こいつがキセキの世代!? まさか、レギュラーじゃ……」

「それはねぇだろ、ねぇ、黒子くん」

 キセキの世代で試合に出る奴なんて言ったら、天才5人並みに存在感ドーン、で迫力バーン、のマジパネェやべぇ連中に違いない。
 比べて、目の前の奴は、めっちゃ影薄い。
 だから、目の前の奴がキセキの世代で試合に出ていたであるわけがない。

 日向は脳内で三段論法を行った末、黒子に同意を求めた。

 が。

「試合には出てましたよ、黒子くんは」

 出し抜けに背後から、当たり障りのないソフトな男の声が聞こえてきた。

「はい……――、!?」

 黒子は、咄嗟にそれを認める。

 が、直ぐに目をハッと目を開いた。

(この、声は……)

「だよなぁ――、え?」

「え、え?」

 聞こえた声の言葉をよくよく脳内で反芻して、黒子とはまた違う意味で、日向と小金井は固まった。

「って、えぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」

 体育館に響く絶叫を聞きながら、白美はゆったりとした足取りで彼等の輪の中に入る。
 そうして驚く部員達とリコ――何より黒子の前に、淡い微笑と共に進み出た。

(さっき名前を聞いた時から嫌な感じはしていた。でも、なんで……こんなところに……?)

 バチッと、二人の視線が一瞬交わったことには、誰も気が付かない。

 白美は黒子ならば気付くだろうと一瞬だけにたりと口角を上げて、また戻すと彼から直ぐに視線を逸らした。
 白美の予想通り黒子は彼の笑いを察知し、目を鋭く細めたのだが、また誰もそれに気付くことはない。

 そしてそれだけではなく、彼等は白美が黒子の事を知っていたということを、驚きの果てに忘れてしまっていた。


 白美は、リコの前に進み出て丁寧におじぎをした。

「すみません、相田先輩。掃除が長引いてしまったのですが連絡を入れられなくて――勝手に遅刻してしまって、申し訳ありませんでした」

「あ、もしかして貴方が、橙野くん……?」

 恐る恐る尋ねるリコに、白美は柔和な微笑みで肯定してみせる。
 その微笑に、息を呑んだのは果たしてリコだけではない。

(うわ……彼――かなりの長身……身長は180代後半ね。制服、か。能力はイマイチわかんないかも。ただ、マジで、び、美形――)

 鋭く目の前の仮入部員らしき男を見つつ、リコは彼の滑らかに整った相貌に若干頬を赤らめた。

  日向は、すかさずそれに気付いて、その場で小さく舌打ちをする。
――確かにこれはこれは美形ではあるが、おもしろくない。

「おい、お前、仮入部員だよな?」

 リコを差し置いて一歩進み出ると、日向は少し睨みがちに声も厳しめで彼に問うた。

「はい」

「じゃあ、あー、お前も上脱げ」

「へ、で、でも俺は――」

「あら、そうね。言うとおり、貴方も上、脱いで」

「……」

(確かにコイツは美形。とはいえめっちゃ細身、筋肉も能力も俺らの足元に及ばないだろ。ざまぁ)

 要するにイケメンに嫉妬したわけだが、日向がそんな風に思って切り出せば、思い通り筋肉フェチ()のリコはノッてきた。

 突き刺すような日向の視線と、ワクワク興味全開でキラキラしたリコの視線を、見過ごすことは賢明ではないだろう。

(かったり)

 白美は困った顔の裏側でめんどくせぇと言わんばかりの貌をしながらも、従順を装いおずおずと制服を脱ぎ始めた。
 ジャケットを脱いで黙って黒子に持たせ、今度は中に来ていた明るい灰色のTシャツを、脱ぐ。




――そして彼の肉体を見て、リコは一歩後ずさった。




(Hello)

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