いつも後ろ姿でした




僕はね、これでも天才って言われて育ってきたんですよ。
どんな方向に天才かというと、全てです。全てにおいて僕は天才なんです。天才なんですよ、聞いてます?
だからね、あの頃僕は"天才な僕"を守るために色んなことをしました。そもそも"天才"なんて勝手に世間が付けた、ある意味レッテルでしかないけれど、周囲の人の、僕を見る目は暖かかったんです。気持ちの良いぬるま湯のような感じで、ずっとそこにいたかったからね、僕も。失わない為に辛酸も舐めようと思っていまして。ああ、もちろん、人が僕を見る目は、暖かかったんじゃなくて、冷たく鋭く、企みがあったからこその優しさだったわけですが、当時の僕にはまだまだ。見抜けませんでしたよ、ええ。だって僕は、本当に"天才"だったわけではなくて、

「僕もまだまだです」
「ヨホホ、そうですか?団長としてあなたの戦力はとても頼りになりますよ」
「いえ、そういうことではなく…」

僕が悪魔の実を食べてしまった時も、周囲は更に僕を天才だと持ち上げた。天才が悪魔なら敵はナシってね。かくいう僕もそれを鬱陶しがるんじゃなく、少しだけほっとしたんだ。これで、"天才な僕"を守るのが少しだけ楽になるんじゃないかと思って。
でもそうでもなくて、ある戦いの時。

「ッ、団長!!」

まぁ、あっけなく、といいますか。
僕がミスしてしまったばかりに、守るべき相手と、守りたかった相手を同時に失ってしまいました。涙さえも出ませんでしたよ。あのときばかりは自分の薄情さが笑えました。天才の座も捨てないままずっとずっと、"天才"のままいたのは、そう持ち上げられることが好きだったからなんかでは当然なく、あの方の隣を陣取り、あの方の間近でお役に立てるのが嬉しくて嬉しくて。そんな僕を、バカだと笑っていただいても構いませんよ。悲しいですが、もう終わったことですから。
何にせよ、僕は騎士団から追放されまして。行く宛てもなく、かといって気ままに旅もすることもできずに、気づけばあの日の失態を何度も思い起こしていたりして。簡単に言って廃人になっていたわけですが、それが何日の、あるいは何年の間の出来事だったのかも曖昧です。
ああ、まあ、いいですね、こんな話は。
何が言いたかったというと、何年経とうと僕は結局のところ"天才"であったのだという事です。だって、

「、団長」
「えーッ!!あ、あなた…!もしかしてカイト君ですか!??!」
「そうです、カイト君です。50と数年ぶりですか、懐かしいですね、お久しぶりです。……いえ、それよりも、…ご無事で…ッ、何よりです……ッ!」

だってようやくあなたを見つけた。
それも、今日という日に。

「あのッ、あの時は…ッ、僕のミスであなたを、あなたをうし、失ってしま、たと!おも、思って、でも生き、てt、生きて、ッしゃるのを、手配書で、知りま、て!ずと、ず、っと!探し…!!」
「カイト君……ヨホホ、私にもまだ、こんなにも大切に思ってくださる方がいらっしゃったのですね」
「だれだ?」
「ルフィさん、やっぱり私、生きてて良かった」
「あたりめぇだろ!」
「てめぇこの骸骨!骨のくせにレディ泣かせやがってオロすぞクラァ!!」
「え…」
「ヨホホ、そういえばあなた、昔から可愛らしいお顔でしたね。髪が伸びて更に女性のようです…、あ、パンツ見せていただいてもよろしいですか?」
「させるかァ!……ん?女性のよう?…て事ぁまさか…!」
「ああ、はい……僕、男です。これでも。」
「カイト、君、つってたろ。聞けよちゃんと」

50年と少し振りに再会できた大切な大切な人は、随分と楽しくも賑やかな船に在籍しているようで。

「カイト君、姿が昔のままのようですが」
「ええ…とある女性に少々お願い致しました。あの頃の僕のほうが、お会いしたときにすぐ分かっていただけるのではないかと。後は、己の身ひとつでこの海を渡らねばなりませんでしたから、少しでも身軽な方が楽だろうと」
そうでしたか、とあの頃と同じ仕草で笑う。外見はすっかり変わってしまいましたが、中身はあの頃のまま、むしろ更に老成されて貫禄や余裕が増したようでした。隣で剣を振っていた時よりも強く思います。この方が大切だと。
「…団長、」
「カイト君、私はもう団長ではありませんので、これからはブルックと、名前で呼んでいただけますか」
「はい、ブルック様」
「……敬称も必要ないんですけどねぇ、…なんですか?」
ブルック様は"様"付けが御気に召さなかったのか少し考えた後に渋々でしたがそうお呼びすることを許してくれました。呼び捨てするなんてできるはずないでしょう。ブルック様は僕の憧れであり、何物にも変えがたい宝そのものなのです。無理です。大切ですから。
今日という日にあなたを見つけることができるなんて、神のお導きなのでしょうか、なんて、信じた事もありませんが、こんな奇跡にめぐり合えたのですから少しくらい感謝してあげても構いませんよ神様。


「誕生日、おめでとうございます!あと、大好きです、ブルック様!」


いつも後姿でした、が、これからは。
団長ではなくなったなら、これからはどうか、隣を歩かせてくださいませんか、ブルック様。

(カイトちゃーん!そんな骨やめて俺とお茶しなーい?!)
(…誰ですかあなた、ブルック様の部下ですか。今後ブルック様を貶したら二度と股間のブツ使えなくしてあげますよ)
(あっはっは!お前面白ぇな〜!俺の仲間になれよ!)




End.


主催企画:祝誕!に提出したブルック誕生日BLD。ブルックに再会できたのを、自分が天才だからじゃなく奇跡だと思ったあたりに主人公君の成長が伺え…ないか。一応愛情ではなく敬愛です。(という、勘違いでも良い)。

OP


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