同田貫正国が鍛刀された。
始めに見た白い仮面をつけた審神者に冷ややかな印象を受ける。何せ表情が読めない。苦手意識は早々に払拭されることはなく、少しずつ降り積もっていった。
その本丸はまだ駆け出しで、同田貫が来てようやく一部隊が作れる程度。

「これで、この本丸は安泰ですね」

同田貫の姿を見てふうと息をつく。

初対面から今に至るまで、同田貫は審神者の仮面の下を見たことがない。そのような決まりがあるのかと思ったが、演練時に面をしていない審神者の方が多かったため違うのだろう。



出撃した部隊から通信機を通して、何かおかしいと報告を受ける。

「あの時代は何度も行っているが、雷が鳴ったのは初めてだ」

違和感はあるものの、ひとまず先に進ませ、帰ってから詳細を報告するように指示する。
通信を切って、合戦場の雷についてを書を引いたり先輩審神者に問い合わせる。
真実を知った審神者はすぐに通信機を手に取る。

「検非偉使がっ、検非偉使が出ました! すぐに撤退しなさい!」
「うるっせえ……」
「! 同田貫、」

明らかに疲弊している刀剣たちの声に息を飲む。

「こんなにコケにされて、黙っていられるわけねえだろ……!」
「……! ……第一部隊、今すぐに帰還しなさい。同田貫正国、……進軍を決めるのは貴方じゃない」

仮面で表情が見えない。さぞかし冷たい瞳でこちらを見つめているのだろうと、同田貫は思った。



機器には帰還転送中の文字。
すぐに門へ走ると、そこにはぼろぼろになって帰ってきた部隊が。中傷四人、重症二人、刀装は一片も残っていない。
その様子に息と佇まいを正して迎える。

「よく、帰ってきてくれました。すぐに手入れ部屋へ」

その姿が同田貫の目には冷徹にうつった。

初期刀、それは本丸において最も練度の高い刀剣だ。それが引き連れた部隊には、検非偉使との戦闘は無謀すぎる。
重傷者は、殿を勤めた初期刀の陸奥守と、部隊最低練度の同田貫。

同田貫が手入れを終えて部屋に戻ろうとすると、審神者の執務室から声が聞こえた。当然それは審神者のものだ。しかし、押し殺すように響くのは嗚咽だ。
障子の隙間からそっと様子をうかがう。
手前の畳には審神者の仮面が落ちていた。
見えたのは審神者の小さな背中。それを優しく擦る陸奥守。
審神者が陸奥守にすがるように泣いていた。

「私のせいで、皆が」
「なんちゃーない、ちゃんとみんなはもんて来たんじゃ。知らなかったがやき仕方ないろう。おんしは調べて、次の対策ができたやか」
「だけど……っ」
「同田貫! おまんもほがなとこにおらんで、こっちきい」
「なっ」
バレていた。審神者の頭越しに陸奥守に見据えられてたじろぐ。
「どうたぬき………?」

振り向いた審神者の顔は涙に濡れていた。初めて見た審神者の顔だ。目元は真っ赤に腫れて、情けなく眉を下げて。
ふらふら、同田貫の元へと寄り、へたりこんだ。確かめるように同田貫の顔を触る。

「手入れ、終わったの………折れてない……? だいじょう、…よか、」

同田貫の無事を確認すると、また表情が崩れて泣き始める。
ごめんなさい、ごめんなさい。私が未熟だから。誰も折りたくないのに。
同田貫の膝で泣きじゃくる審神者を信じられないというような表情で見ていた。陸奥守に促され、その手で審神者の頭を撫でる。


この本丸の審神者は、大勢いる審神者のなかでも一等の泣き虫だった。それを見かねた師は仮面を作らせ、せめてその表情を隠して審神者としての威厳を保てるようにしたのだという。
審神者を寝かせてから、同田貫は陸奥守からその話を知らされた。どうか見守ってやってくれと。




次の朝、廊下で鉢合わせた審神者はいつもと変わらず仮面を着けていた。
「昨夜はお恥ずかしいところを見せてしまいました。今後このようなことが無きよう、あなたの練度をもっと上げるために出陣を、あっ」
淡々と告げる審神者の仮面をめくると、真っ赤な顔で目をそらされた。

「…………まさか陸奥守以外にあんなところを見られるなんて……」

バツが悪そうに口元で呟く審神者に、同田貫は今度こそ仮面を剥がし取った。

「あんたはそっちの方がよっぽど人間らしい」
「あっ、ちょっと! 返しなさい!!」

仮面を持つ手を上に掲げれば審神者はぴょんぴょんと跳ねる。その姿が可笑しくて、同田貫正国は初めて笑った。

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