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「あーるじ! 今日はみんなでご飯食べようか」

いつもなら部屋に運んでくるはずの夕食を持たずに、障子から顔を覗かせた燭台切はそう言ってのけた。あからさまに不快さを顔に出してみるがかわされる。

「いえ、私は……」
「ほらもう主の席も用意してあるから! 行こう!」

結構です、と口のなかで呟いたが燭台切に被せられて言葉にならない。手を引かれて廊下を歩く最中、どうにかして逃れる方法はないかと模索する。その努力もむなしく、あっという間に大広間に着いてしまった。

「みんな、主が来たよ!」

燭台切の後ろに隠れようとした私を前に押し出した途端、大広間が一気にざわつく。……だから嫌だったんだ、いきなり食事なんて。
ずらりと並ぶ机の真ん中へ連れていかれ、当たり前のように燭台切が隣に座る。昨日まで刀解寸前だったとは思えない図太さだ。
いただきます。ちらちらと向けられる視線の中、それぞれが手を合わせて、食事を始めた。

黙々と箸を進める。もともと食事中に喋る方ではない。けれど、周囲の刀剣たちが少しずつ気まずさを感じているようで、居心地が悪い。
席についてからずっと隣でそわそわしていた燭台切が沈黙を破った。

「主、味はどうかな? 主が住んでた所のお味噌を使ってみたんだけど」

そういえば、いつもと味噌汁の色が違う。
碗を取って、口づける。……懐かしい味だ。

現世に戻っても、居られるのは地元ではないので味噌が違う。おまけに自分で料理することなど久しくなかった。
食べ慣れていたものを久しぶりに摂取し、身体に馴染んでいくような気さえしてしまう。
二口目を飲もうとして、燭台切から返答を求められていることを思い出した。隣から熱い視線が注がれている。

「良いのではないでしょうか」
「気に入ってくれたみたいだね、よかった。これからこっちのお味噌を使うことにするよ」

はたと気づく。私にこの味噌汁を飲ませるために、出生を調べたのだろうか。いずれ弱味でも握られそうだな、と苦い笑みがこぼれる。

「あるじさま」

反対隣から話しかけてきたのは五虎退だ。離れた席にいたはずだが、こちらまで来たらしい。手には水羊羹の乗った小皿を持っている。今日のデザートだ。

「僕の水羊羹、あるじさまにあげます」

僕が一番好きなデザートなんです、と目線を下にそらす五虎退。

「私は甘いものが好きではありません」

え、と大広間の所々から声が漏れる。みるみるうちに五虎退の目に涙が溜まっていく。

「だから、これから私のデザートは五虎退が食べてくれませんか? 今日の水羊羹も、五虎退にあげます」

ほら、と小皿を差し出せば、両手に一つずつ水羊羹を持った五虎退がその場にへたりこんだ。

「あるじさま、隣で戴いても良いですか……?」
「ええ」

髪を撫でれば、嬉しそうな表情でとうとう涙を落とした。

「……デザートが残って戻ってきたことなんて無いけどね」
「黙りなさい」

信じられない物を見る目で一部始終を見ていた燭台切が小声で呟いた。

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