思い出を枯らせて 7


次の日、なまえは財団の日本支部へ置いていた資料を取りに行った。当初の予定通りだ。財団本部へ行った後に同じ職務をするのかはわからなかったが、今出来ることをしていて損はないだろう。
なまえが回収した資料を手にしてホテルへ戻ってきたのは夕方だった。暗くなり始めた道を小走りに、ホテルへ入ろうとした時だ。

「みょうじ! 何をしていたんだ!!」

声をがなりたてたのは、なまえの上司だった。突然腕を痛いほどに掴まれて、なまえは怯む。その隙にぐいぐいと引っ張られ、ホテルの逆方向へと歩き出してしまう。

「留守電を聞いてみればこんなところに来ているなんて、ふざけるな! 提出した休暇予定の変更は認めないと言ったはずだ。それが休暇の条件だからだ!」
「ちょっと、待ってください……っ」

男の強い力に、なまえは進む足を止めることができない。それでも出来る限りの抵抗を試みたが、せいぜい速度が緩んだくらいだ。

「早く戻るぞ! ここにいたらあの男が……」
「なまえをどこに連れていく気だ」

時が止まったかのようだった。
上司に掴まれていたなまえの腕をはなさせて、承太郎がそこに佇んでいた。上司を見下ろし睨み付けている承太郎に、上司はカタカタと震えていた。
涙目になっていたなまえを後ろに隠し、承太郎はなまえの上司の胸ぐらを掴み上げた。

――なまえを連れ去り、監禁した人間がもしも、
SPW財団内部の人間だとしたら、情報を操作してなまえが死んだことにするのは容易いだろう。
監禁したなまえをわざと逃がしたとしたら、逃げたなまえを追跡することが可能だろう。
なまえが助かったと思い込ませて、逃がさぬよう監視を続けていたとしたら、今もそれを続けているのだろう。

現に今、部下のプライベートを縛る上司を演じていたのだ。承太郎の目の前にいるこの男は。
逃がさぬよう、承太郎たちに会えぬようになまえを縛りつけ、操っていた男はまだ詰めが甘かった。承太郎の影に怯え、警戒するあまりに自分からなまえを連れ戻しに出てきてしまったのだから。

「なまえの死体はスタンドで造ったものか……俺にとってはどうでもいい。ただ、俺はてめぇを許さねぇ」

スタープラチナの拳が振り上げられる。

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