アネモネを咲かせて 二つの赤が咲く
「承太郎はちゃんと、私を助けてくれたのね」
誰よりも先に駆け付けてくれた。私は待てなかったけれど、承太郎は私を探して、見つけてくれた。そして、全てを忘れようとした私を連れ戻してくれた。 ずっと傍にいてくれた。不安に震えていた私を抱き締めてくれた。 頬を涙が伝った。監禁されていたときも、あの写真を見せられたときも、承太郎のことを全て忘れてしまったときも、一度も泣かなかったのに。涙腺がその機能をやっと思い出したかのように、とめどなく溢れるばかりだった。
「ずっと、気がつかなくてごめん。もう勝手にいなくなったりしない。勝手に忘れたりなんかしない。だから――」 あのときの私は、何も知りたくないと、閉ざすことでしか自分を守れなかった。 今は違う。私が望むのは――
「なまえ」
唇に人差し指が当てられ、言葉を遮られた。離れていく指の代わりに、唇を寄せられる。
「俺の傍にいてくれ」
私の想いを代弁するかのように、承太郎から告げられた。
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