short 恋情の上書きをしてください


*暗い






その話を聞いて、笑顔でおめでとうを言った。手の震えがとまらなくて、笑顔で相槌をうつのが精一杯だったからあとの話はほとんど聞けていない。
私は伝えていない、今ですら「本当は好きだった」なんて言っていないし、傷ついているだなんて微塵もわからないように取り繕っている。だから承太郎は何も知らない。それは私が選んだからだ。だけど、こんな結果を望んでいただろうか。

ふらふらと帰ると、玄関の前には一人の男が佇んでいた。
「なまえ、」
重い声で名前を呼ばれて、彼も話を聞いたのだと理解した。私の気持ちに気付いていたのは彼だけだった。だから、ここに駆けつけてくれたのだろう。
玄関の中に入って、私が動けずにいると、花京院が傍に来て私の手をとった。
「……靴、脱ぎなよ」
気付いてたの、とその言葉に視線を下に向けて、靴擦れで痛む足を見る。あの高い視線に近付きたくて、少しでも綺麗だと思ってほしくて、慣れないヒールを履いて。新しい服も、綺麗なメイクも。全部、承太郎に会えるからと用意したものだったのに。
スカートを握りしめたらぐしゃりと皺が寄った。
酷く辛そうに顔を歪めて、花京院は私の肩を引き寄せる。もう私は堪えきれなくて、とうとう涙が溢れだした。けれどもこれは悲しさや悔しさからくるものではない。私が本当に辛いときに、花京院がここにいてくれることが嬉しくて仕方がなかったのだ。きっと彼がいなければ、私は泣けやしなかっただろう。
そしてその後は、涙で汚れたメイクも、皺の寄った服も、擦れる靴も脱ぎ捨てて、

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