願わくば 13


翌日。なまえの看病の甲斐あってか、承太郎はすっかり熱が下がっていた。しかし、あの近い距離で看病をしていたなまえはしっかり風邪をうつされていた。

「うー……承太郎」

けほけほと咳き込みながら訪問者を見上げるなまえ。冷却シートや氷枕と、風邪っぴきのフル装備といった体だ。

「飯は食ったな」
「うん……」
「薬は」
「……なかった」

はあ、と小さく息をついて立ち上がれば、「どこ行くの?」と寂しそうな表情で見つめられる。おい、いつもはそんな顔しねえじゃねえか。熱でいくらかぼうっとした目が潤んでいる。その様子にあらぬ考えがちらりと頭をよぎったが、振り払う。

「薬を持ってくるだけだ。暇だったら寝てろ」
「……うん」



薬とグラスを手に部屋へ戻ると、なまえはすうすうと寝息をたてていた。毎度毎度、警戒心が足りないにもほどがある。

「おい、なまえ」
「んん〜……」

薬を飲ませるためにグラスを渡そうとするが、手の動きが覚束ないようで取り落としそうになる。

「うんん……」

なまえの意識は熱で朦朧として半分寝ているような状態だ。これでは自力で薬を飲むことは出来ないだろう。
このまま眠らせてもいいが、薬を飲まなかったせいで余計に熱が上がったりと体調を崩されては困る。おふくろも心配するだろうし、臥せっている間はなまえの料理も食べることができない。

「……なまえ」

もやもやと並べ立てたところで、それらは今からしようとしている事への言い訳でしかない。
なまえの肩に右腕を回し上体を起こさせて、白い錠剤と水を口にふくんだ。
承太郎の行動にかくりと首をかしげたなまえの顎を左手で支え、口を開かせる。

「……ん、」

ぴったりと唇を合わせ、薬と水を流し込んだ。喉が上下したのを確認して口を離す。薬が喉に残ることがないように、もう一度水を飲ませた。
なまえは眠っていた。この分では覚えていないだろう。
なまえをベッドに寝かせ、部屋を出た。

まだ湿っている唇に指で触れて、口から渇いた笑いが漏れた。
キス紛いの接触で、ガキみたいに意識している。
「クソ……」
もっと触れたかった。 結局のところ、これが本心だ。

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