ひとまわり 4
一度経験した痛みは簡単に忘れられるものじゃない。特に、死に際とかは。
「なまえ…………なまえ、」 「──あ……のり、あき」
肩を揺すられてようやく目を覚ます。止まっていたはずの心臓がばくばくと音を立て、額には嫌な汗が滲んでいる。 暗くとも典明の心配している顔は伺えて、少しばかり申し訳ない気持ちになる。
「酷くうなされていたが……夢見が悪かったのか」 「……うん、ちょっと」
前世の終わりの夢を見ていた。あの時はあまりの痛みに身体か脳が麻痺していたはずだ。しかし夢では鮮明な映像とともに激痛が思い起こされた。 眠っていたのに無駄に疲れてしまった。その疲れから逃れるために、目前の典明の胸板に身体を寄せる。
「ホットミルク飲むかい? 少し、落ち着いてからの方が眠りやすいだろう」 「んーん」
顔をうずめたまま、首を横に振る。
「典明が助けてくれたから、大丈夫」 「……そうか」
典明もようやくほっと息をつき、私の後頭部を撫でた。
「典明、ちゅーして。ちゅー」 「はいはい」
あっさりと了承が返ってきた。あれ?と思う間もなく、典明の唇が触れたのは額。
「……子供扱いしてるでしょ」 「そうじゃないと僕がもたない」 「ふーん」
あともう一押しかな。なんて思いながらもう一度眠りについた。きっともう悪い夢は見ないだろう。 戻る
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