炊飯リードナウ

夕飯時、ポンポンと肩を叩かれた。見ると肩をすくめる同居人の姿。どうやら寝ていたらしいと気づく。見ると時計はもう18時過ぎ。要は6時を回っていた。レポートを何とかしようと四苦八苦していたが気が付いたら寝ていたらしい。パソコンの画面には、必死に出されたレポートの文章とえrtrrrrrrrrrrhhhhhhと意味不明な英字が並んでいた。
提出はぎりぎりではないにしろ、バイトもあるので正直早く仕上げてしまいたいと思ったが、時間をかけないといけないかもしれない。
ふう、とため息をついた。そんな自分にタブレット端末が差し出された。画面には、【あじみ】と書かれていた。なんだか、いい匂いが漂っている。

「味見?」
【そう はじめてつくるから】

首がないから、食べる必要がない。だから、味見もできないから味見だけやってほしい。と言われたのはだいぶ前になる。僕が作ると、キッチンが火事になるため、それだったら料理をしよう。といったのは、彼からだった。お湯を沸かそうとして、床に熱湯ぶちまけたのは、もういい加減忘れてほしい。


台所まで行くと、ことことと肉じゃがが煮えていた。ジャガイモの表面は煮汁を少しだけ吸って、ほくほくとしていそうだった。それに、ニンジンと肉としらたき。近くの壁には手書きでメモしたらしき、レシピが乗っていた。
レシピに目が向いた僕に気が付いたのか、【いいよね ぶんりょうがしっかりとかいてあるとあじみできなくても、あるていど きまるし】とひらがなで返ってきた。漢字はまだ分かりにくいらしい。

手慣れたように、ジャガイモを取り、小さな皿に乗っけて、箸で割る。そして、そのまま彼は手渡してくれた。ほくほくに煮えている芋を口に含むと…少しだけ頭がすっきりした。甘い、それでいて、程よいしょっぱさ。実家の味ではない、すこし不思議な味だった。

「おいしいよ」
それだけ伝えると、っぐと親指を立てて返事になった。ご機嫌のようだ。るんるん、と鍋に蓋をするその姿は首がない以外はすごく、普通に見える。

「そういえばさ、昼間って何しているの?」

無い首を傾げるように傾けながらも、タブレットを操作する。そういえば、どこまで見えてるのか、よくわかっていないなぁ。と思うとすごく、それも気になった。眼球に当たるものもないのに、見えているとかすごく不思議だ。

【そうじ せんたく とか?】
「それ以外は?」
【…りつのへやにある ほん よんでる】
「へ?」
【てれび つけても そんなに みたいもの ないから】
【もじ かいたり よんだりして れんしゅうしてる】

何度か、瞬きした。
僕自身は、正直読書家と呼べるほどのものじゃない。たかが、知れている量の本しか持っていなくて、どちらかというと姉が小説や雑誌を大量に持ち込んでは置いて行っているって言った方が近い。最近では、なんでも読んでいるせいで、正直自分の買った本がどれかよくわからなくなっても来ていた。バイトの方も忙しくて、読んでいるほどの時間もなかったからだ。

「好きな本とかある?」

今度は、向こうがきっと目を見開いた。少し、考えるように手を動かして、パタパタと僕がさっきまでいた部屋に向かっていく。そして、戻ってきたときに手にしていたのは数冊の小説や絵本、そして、なぜか旅行のガイドブックだった。

【よみやすいのとか みやすいのが すき】
「…今度、何か買ってくるね」
【え、きにしなくても、まだいっぱいあるし!】
「いや、なんか申し訳なくて」
【え?】
【え、え?】

わたわたと慌てだす彼を制しながら、少し今後の書籍代をねん出しようと決めた。大丈夫、実質僕一人しかお金かかっていなかったようなレベルだから。


そして、翌日。
早速、いろいろな種類の本を買って帰ってみたら、ちょっとうきうきしたように開いている姿を見るようになったので、買ってよかったと思う。




炊飯リードナウ



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