ebullient future



夕焼けが差し込む。屋根のないプラットホーム。朽ちた線路、ただ時が過ぎるのを待つだけの場所にその人は独りいた。ベンチに座り、何かを考えているように空を見上げ。しかし、その瞳には何も浮かべてはいない。
そこの場所には、時間という概念すら存在していない。時を刻む音もなく、ただ風が吹くこともなく。前に進むことはない。

その無音を破ったのは、ひとつの靴音だった。


「こんにちは、木吉さん」
「…ああ、黒子か」


誠凜の真新しい制服を見て、木吉はわずかに目を細めた。そして、金属杖を片手に、ベンチから立ちあがった。


「誠凜に受かったんだな」
「はい、バスケ部に入ります。そして、」


黒子は木吉の目をまっすぐ見た。木吉はそれを受け止める。
黒子は視線をそらすことなく、口を開き、宣言した。



「僕は、キセキの世代を倒します」


夕日はわずかに春の残光を含んでいた。ただ、ひとりだけ動かない季節を抱え、その光と制服に決定打を押され、何もできずに淀んでいることを自覚させられた木吉は力なく笑みを浮かべる。


「そうだな、あそこのチームなら誠凛なら、きっとできる。なんてったって全国制覇を目指しているんだからな」
「…あの」
「なんだ?」

「…木吉さんはあの、

誠凜にいたんですか?」


黒子の問いに、木吉は日記の一文を思い出す。


「そうだな、黒子との約束を果たさないといけないよな」
「…え」
「そうだな、俺は一年前にあそこにいた。あそこにいて、全国を目指していた」


黒子の頭の中で、誰かが言っていたことが流れた。


「黒子、俺はな。」



そうだ、なんて言っていたか。
『俺が言うことじゃないから、直接木吉に聞けよ。……今度もあいつと付き合っていく覚悟があるんだったらな』『あいつとの約束は破ってやるなよ』







「記憶障害を抱えているんだ」


「記憶、障害ですか」
「ああ、俺の記憶は13時間で消えるんだ。だから、厳密に言えば、最初に黒子に逢った俺と今の俺は別人みたいなもんだ」




そうして、木吉鉄平はまったく見覚えのない、日記に記されていた【淡い髪色】で【真新しい誠凜の制服】を着た【バスケットボールが好きで】【キセキの世代を倒すと誓った】【15歳の】【無表情】で【影の薄い】自分よりも【背の低い】【黒子テツヤ】へと笑った。ごめんな、と。口に出せずに。謝りながら。

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