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一話

元治元年五月ーー。
年号は文久四年から元治元年へと代わり、元治元年の初夏が近づく頃。
春が過ぎて木々も茂る時期を迎え、晴れ渡った青空が頭上に増え始めている。

土方さんに呼び出しをくらい、広間へと行けば、平助に総司、左之さん、新八さんが揃っていた。
きょとんとしたが、総司に手招きをされて隣へと座れば、すぐに一君の声がふすま越しに聞こえた。


「副長、斎藤です。雪村を連れて参りました。」

「入れ。」


土方さんが応えると、一君が静かにふすまを開けた。
千鶴が入ってきたのを見て、私は改めて面子を見てから納得した。
ここに揃っているのは千鶴の事情を知っている幹部隊士だ。


「ずいぶんと長く待たせたな。おまえを外に出してやるときが来た。」

「……本当ですか!?」


そして、続けて聞かされた言葉に、千鶴は大きく目を見張る。


「父と特徴の一致する人が、伏見にいた……!?」

「真偽は定かじゃねえが本人かどうかは、娘のおまえに確かめてもらうのが一番だと思ってな。」


土方さんの言葉に、千鶴は頷きで応える。
今は、綱道さんにつながる情報であればたとえ噂でも彼女にとったらありがたいことだろう。


「それで、父によく似た人というのは、一体どこに?」

「伏見にある寺田屋って宿だ。これから斎藤に確かめに行ってもらう。」

「斎藤さんに……」


とういうことは千鶴はこれから、一君に同行するってこと?

すると左之さんが、こう口を挟む。


「だが、綱道さんがまだそこに留まってるとは限らねえだろ。」

「ああ。伏見にいたってことは、京の町中をうろついてる可能性もある。」

「だから、原田と新八、それから平助と千華の巡察にこいつを同行させて、綱道さんを捜してもらってもいい。」

「オレたち全員で?いつもは手分けして順番に見回りしてるのに……」


平助の言葉に同意するように頷く。
土方さんはその問いに答えず、千鶴の方へとちらりと視線を送った。

あぁ、なるほど……。
千鶴が逃げた時のことを想定しての人選ってことね。

平助もそのことを察したのか、それ以上問いを投げかけることはなかった。


「……言いたいことはわかりましたけど、この子のお守りを僕たちに任せっぱなしってのは、気に入らないなあ。今日は確か、土方さんも外出する予定が入ってましたよね?」


総司がチラリと隣にいる私に視線を送ってくる。

あぁ、成程。


『今後の為にも、可愛い小姓を同行させて、色々勉強させたらどうですか?』

「何を言ってやがる。こいつが俺の小姓っつうのは、おまえらが勝手に言ってただけだろうが。」

「でも他の隊士たちは、完全にそう信じ込んでるみたいですよ。」

『【嘘から出た真】なんて言葉もあるし、相応の仕事をさせた方がいいんじゃないですか?』


私と総司と土方さんが言い合いを始めて場の雰囲気が剣呑になる。
すると、左之さんと何やら話していた千鶴が口を開いた。


「……それでは、土方さんに同行させてください。」

「おい……おまえまで何を言いだすんだ。」


迷惑だと言わんばかりの土方さんの反応に、いささか気後れしてしまう。
だけど、千鶴は丁寧に自分の考えを伝えた。


「土方さんが外出されて町を歩くなら、父を捜せることには変わりませんし……。他の隊士が私の素性に疑いの目を向けているなら、小姓らしい行動を取ってみせたほうがいいと思うんです。」


例えば先日の武田のように、千鶴の存在を疑問視する人もいる。
実際私の組の隊士の中にも何人か疑問を抱いている人がいて、私に質問してくるくらいなのだ。
だから……と千鶴が告げると、土方さんは苦り切った顔で答えた。


「……あのな。総司と千華の言うことを馬鹿正直に受け取るんじゃねえ。こいつらは面白がってーー」

「『可愛い小姓ができて良かったですね、土方さん。』」


私と総司は口を揃えてニコニコ顔で言った。
土方さんはその後もしばらくの間苦い顔で私たちを睨んでいたけど。


『土方さん、せっかくの千鶴の申し出を断るつもりですか?斬りますよ?』


私がそう言うと、土方さんは嫌そうにため息を吐いた。
やがて……。


「……わかった。ただし、俺の仕事の邪魔はすんじゃねえぞ。」

「はい、わかってます。」


こうして千鶴は、土方さんの外出に同行することになったのだった。


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