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「死ねぇいぃ、このうつけがーー!!いつの間にそんな軟弱になりおったー!!」
「うわーー!!だ、だれかとめてーー!!」



そんな声が聞こえた私はがばっと体を起こした。リクオより早く帰って来た私は眠さがピークに達し昼寝をしていたのだ。


誰よ、こんな騒いでんのは。


ボサボサの髪の毛を手櫛で整えると私は騒がしい部屋へと向かった。


だんだん近づいていくと部屋の中からゴホゴホッと咳をする声と慌てるリクオと妖怪達の声が聞こえた。私はひょこっと襖から部屋の中を見る。



『うるさいな。静かに寝れないじゃない』
「姫っ!!」



不機嫌な声でそう言うと部屋の中にいた皆が一斉に振り返った。一斉に振り返ったことで驚いた私の肩が跳ねる。


一斉に振り返らなくても。


リクオは私の姿を見ると嬉しそうに頬を緩ませ駆け寄って来た。そのまま私の後ろに隠れるのでその行動に首を傾げながら騒動の中心を見るとそこにはこれまた懐かしい姿。



『あら?鴆じゃない』



そう声を掛けると口許を押さえていた鴆は顔を上げた。私の姿を見て「おおっ!」と嬉しそうに声を上げる。


あんたさっき咳してたけどそんなに声上げて大丈夫なの?



「姫様!」
『元気してた?てかさっき辛そうにしてたけど大丈夫なの?』



すると思い出したようにまたゴホゴホッと咳をし出す鴆の姿に慌てる本家の妖怪達。私は頭を抱えながら溜息をつくと鴆一派の幹部を呼んでくるように近くにいた小妖怪に指示をした。


幹部に連れられて屋敷に戻っていく鴆を見送って着替えてきたリクオと共におじいちゃんの部屋に向かう。部屋の中にはお茶を飲んでいるおじいちゃんと鴉天狗の姿。


【鴆】なる妖は、その羽を酒に浸せば五臓六腑が爛れて死に至る猛毒の鳥妖怪だ。薬・毒薬を司る【鴆一派】の頭領が【鴆】である。


どのような薬も経年によって猛毒へと変わる様に鴆も生まれた時には美しい鳥であるという。


やがて元服の頃、羽が猛毒へと変わる。その反面、特性のためか一族は大変体の弱い───いつ消えてもおかしくない。儚げで、弱い妖怪なのだ。



「鴆様も、なかなか本家に顔も出せず。今日は何故か···」
「······てか」



鴉天狗の言葉を遮るのは今さっき放たれたであろう鴆の羽を見ていたリクオ。リクオは怒ったようにお茶を飲んでいるおじいちゃんへと顔を向ける。



「呼んだんだろ!!じーちゃんが!!鴆くんをボクに説教させるために!!」



そういえば、リクオ。鴆のこと苦手だったわね。



「フン。ばれちゃーしょーがないのう!!」
「総大将だったのですか!!」



ショックを受ける鴉天狗に思わず溜息をついた。


普通分かるでしょうに···。



「なに考えてんだよ!!鴆くんは動いちゃいけない体だってのに!!ひどいよ!」



人間のリクオはすごく甘いと思う。



「フン、そう思うのなら···ワシの奴良組、やっぱお前にゃ譲れんわ」



襖を開けて部屋を出て行くおじいちゃんをリクオは顔をしかめながら見送った。



「何言ってんだ···こっちこそ願い下げだっつーのに」
「リクオ様···昼の勉強も大事ですが「夜のお勉強」もおこたらんでほしいですな!」



ふわふわと浮きながらそう言う鴉天狗。昔の鴉天狗は大きかったらしいがそれを考えると母親みたいにガミガミうるさい今の鴉天狗は何だか可愛く見えてくる。


そう考えていると話が進んでいたらしい。鴉天狗は納豆小僧に【奴良組百鬼夜行画図】を持ってくるように指示をした。



「はいよ」



パタパタと納豆小僧が駆け足で持ってきたのは長い筒のようなもの。



「日本地図?」
「これは···組織図ですな」



鴉天狗がそれを広げると私はリクオの隣から地図をのぞきこんだ。各都道府県に家紋のようなものが書かれている。これは奴良組の傘下にある妖怪たちのものだろう。


日本には古来より様々な妖怪がいる。海のもの・山のもの・人型・獣・付喪神、そのほとんどが【闇】にひっそりと生きる【弱い】者たちなのだ。それら弱い妖怪を守る器···それが、奴良組の一面でもある。



「リクオ様、あなたがこの一面も継がなければ誰がやるのですか…?」



そう問いかける鴉天狗にリクオは戸惑ったように視線を彷徨わせた。







私とリクオが歩く先。そこには一本の酒を持って騒いでいる黒田坊と青田坊の姿。私は素早く二人に近づくと頭をベシッと叩いた。



『こらっ···ホンットあんたたちは』
「え···これ姫の?」
「飲むんですか?」
『飲むか!!』



不思議そうに聞いてくる黒田坊に即答で返す。そんな私の横からリクオの腕が伸びて青田坊の腕の中にある酒をひょいっと取り上げる。



「鴆君に謝りに行くんだ!結果的に無理強いさせちゃったことは悪いんだし!」
「若···」



そんなリクオに鴉天狗はうるっと涙をにじませる。



「それに···ちゃんと説明しなきゃ!ぼくが人間だってこと!きっとわかってくれるよ!三代目は継がないって!」



神夜もついて来てね!


ニッコリと笑うリクオに思わず私は溜息をついた。


もうダメかもしれない。何言っても無駄ね。



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