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朧車に乗りながら鴆の屋敷に向かう私達。私は鴆の屋敷が見えてくると後ろを振り返った。
『もう着くわよ、リクオ』
「うん」
頷いたリクオの顔に羽が当たった。どこかで見た覚えのある羽。すると金狐に変化していた私の獣の耳がピクリと動いた。
何、この匂い。焦げ臭い。
着物の袖で口許を覆うと朧車が「若、姫」と叫んだ。
「鴆様の屋敷が···わっ、か···火事ですよぉーー!!わーー···ど、どうします!?」
「『な···!』」
朧車から顔を出し前を見ると確かに鴆の屋敷が燃えていた。するとリクオは焦ったように叫んだ。
「そ······そのまま!!」
「え!?」
『何で!?』
私は驚いてリクオを振り返り、朧車も声を上げるがリクオはそんなこと気にも留めず先ほどより大きな声で叫んだ。
「そのまま···つっこんでええ!!」
「へぇ!?」
『ちょ、う、嘘でしょ!?』
声を上げる私をリクオが抱き寄せた。私の頭を庇うように抱きしめているリクオの羽織をぎゅっと掴むと、ドゴォォンと大きな音を立てながら朧車は鴆の屋敷に突っ込んだ。
私達は急いで朧車から降りる。
「鴆くん!?」
『大丈夫!?』
燃え盛る炎の中、刀を床に突き刺しながら座り込んでいる鴆の元へと駆け寄る。ゴホッと血を吐く鴆の肩にリクオが手を置く。
「ごふっ···リ、リクオに神夜···?どーしてお前らが···?ここへ···」
「んだぁ!?てめぇ!」
「こいつ···あの奴良組のバカ息子と姫!?」
振り返った先には驚いたように私達を見る鴆一派の妖怪達。
「お供はどーしたんだ···。オレじゃ···お前たちは守れねぇってのに···」
鴆は苦し気に言葉を発した。
「神夜、こいつらは···?」
『確か···鴆一派の幹部よ』
リクオと肩を寄せ合い小声で話す。鴆一派の幹部【蛇太夫】は私達を見て「くく···」と小さく笑った。
「丁度いい···このウツケ者の反対派は幹部にも多いときく···ぬらりひょんの孫···」
私は鴆とリクオを庇うように前に出ていつでも抜刀できるように夜桜の柄を握りしめる。すると蛇太夫は首を長く伸ばして私達に襲い掛かって来た。
「殺してオレのハクがつくってもんだ!!」
私達に向かってくる蛇太夫を睨みつけながら抜刀の態勢をとると。
「許せねえ」
後ろからリクオの声が聞こえたかと思うと、妖気を感じた。
四年前と同じ妖気。
「ど···どけ!?リクオ!!神夜なら兎も角お前に何が出来る!?」
声を上げる鴆を押し退けると【彼】は私を抱き寄せて後ろに下がらせる。
「下がってろ」
後ろに下がる瞬間に見えたのは長い純白の髪に、夕陽よりも深い紅の瞳。妖怪の姿のリクオだった。
彼は祢々切丸を抜刀すると襲い掛かって来る蛇太夫の口を祢々切丸で受け止めた。驚く蛇太夫と目を見開く私と鴆に見向きもせずリクオは飛び上がるとそのまま祢々切丸で蛇太夫の体を真っ二つに切り裂いた。
鮮血が周囲に飛び散ると鴆一派の妖怪達が情けない声を上げながら逃げていく。
「あんた、誰だよ···?」
『リクオ、あんたまた覚醒したのね』
「リクオ?リクオだって!?」
驚いて私を振り返る鴆に口角を吊り上げて笑みを浮かべると彼は不敵な笑みを浮かべながら振り返った。
「よう、鴆。この姿で会うのは初めてだな」
驚いて固まっている鴆をチラリと見てリクオは私を見る。
「神夜」
静かに私の名前を呼ぶリクオに答える様にフッと軽く笑う。
『桜の舞』
右手の掌に幾つもの桜の花びらが浮かぶと軽くそれに息を吹きかける。するとその桜は舞うように空に舞い上がり先程逃げて行った妖怪達の後を追っていった。
刃の如く鋭くなる桜。
あとは、あの桜が始末してくれるだろう。