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隠神刑部狸・玉章



凄まじい眼で私達を見据える玉章にゆらは体を震わせた。



「うはぁ···」
「陰陽師のくせにビビってんじゃねーよ」
『あんたは人間の世話にまわんなさい』



リクオと私がそう言うとゆらは悔しそうにしながらもここは任せた方がいいと思ったのか「うう···わ······わかった···」と悔し紛れにそう言った。



「神夜、下がってろ」



私を庇いながらそう言ったリクオに頷くと、ゆらを連れて氷麗の元に戻る。


此方を見て騒いでいる人間たちをゆらは下がらせに向かった。


それと同時に、



ージャギィィッ



玉章の刀とリクオの祢々切丸が交差した。


物凄い剣圧が私と氷麗を覆う。庇うように氷麗を抱きしめると、私達の後ろの方から猩影が現れた。リクオと刀を交らわせたままの玉章を睨みつけると「玉章ーー!!」と叫んで向かおうとするが、その瞬間玉章の背中からドオオオオと何かが溢れて出した。



『何っ!?』



氷麗を腕の中に庇ったまま前を見るとそこには玉章の背から伸びる四国妖怪たちの骸の姿。



「うおっ···何なんだ···あの力は···!!!本当にさっきまでの小柄な男か!?」



私達はその光景に目を見開く。


あの刀で妖怪の力を吸い上げたんだ···。百鬼をまとう妖怪となった───


リクオ···貴方勝てるの······?


そんな疑問が一瞬私の頭を過ったと共に目の前のリクオが玉章に力で押されていた。鋭くリクオを睨みつけたかと思うと、力任せに刀を振るった玉章の圧倒的な力で彼は吹き飛ばされた。



ーガッ



「ぐっ···」



地面に叩きつけられたリクオに私達は急いで駆け寄った。



「若!!」
『リクオ!大丈夫!?』
「玉章!!私たちが相手だ!!」



体を起こそうとするリクオの背中に手を当てて起きるのを手伝うと、私達を庇うように前に出た氷麗の横で首無が叫んだ。だが、リクオは立ち上がって私に小さくお礼を言うと、一歩を踏み出す。



「まて。こいつはオレがやる」
『リクオ!?』
「大将は···体を張ってこそだろ」



私達が止めるのも聞かず、リクオは祢々切丸を構えると玉章に向かっていった。だが、玉章の刀でドカッと一蹴されてしまった。それでも諦めることなく懸命に立ち向かうリクオを私達は見守るしかなくて。


リクオ······。


胸の前で手をぎゅっと握った。


玉章の力は圧倒的で、リクオは玉章の刀で弾き飛ばされ私達の近くに転がってきた。



「若ァァ〜〜〜」



私の隣で氷麗が声を上げる。


それでも私達は手を出すわけにはいかなくて。


硬く握りしめた手に爪が食い込む。ピリッと鋭い痛みを感じて握っていた手を見ると掌が切れて細い線から血が出ていた。


気付かなかった······これほどまでに握りしめていたのか。


すると、遠くの方の空が白んできたのに気が付いた。それに気づいたのは私だけではなく玉章も。空をチラリと向けると、侮辱するかのように目を細めてリクオを見る。



「空が白んできたぞ、リクオ······」



それと同時にリクオの体からシュゥゥゥと言う音とともに煙が出てくる。



「!?」
「若······!?」



自分の手を見るリクオを私達は驚きの表情で見つめる。もう夜が明けるのか!


「なんだ!?」「朝だ···リクオ様が人間に戻りつつある!?」「な···なに?」奴良組の妖怪達が騒ぎ始める。玉章はジャリ···と一歩を踏み出した。



「恨むなら非力な自分の“血”を恨むんだな···」



玉章は神通力を持つ父の血を色濃く受け継いだそうだー。でもそれは···“必要のない力”だった。三百年前に牙をもがれた組の中、大将・隠神刑部狸の88番目の嫁の8番目の息子だった玉章の序列では···。何も出来ることはなかった。


「貴様の目はギラギラしすぎだ」と兄どもに笑われた。「今の四国では···そんな目をした妖怪はいない」と。


玉章は何の野心も持たない兄たちに絶望していた。


いつか来る···きっと来る“日の目”を信じて自分だけで動いた。やつらの目をあざむくために表でおとなしく学校に通い、裏では神通力を使い若い妖怪たちを下僕として集め回った。


そして───それは突然やってきた。“あの方”は···玉章にこの刀を与えてくれたそうだ。


かつて父の牙をもいだ“魔王の小槌”四国中の妖怪がその名をきくだけでふるえあがる神宝!



"いいですか············天下をとるのです···玉章。あなたにはその器がある!!この刀を使い百鬼夜行を作るのです···!!そのときそいつは真の力を発揮するでしょう···"

"何が魔王の小槌だ"
"玉章···今さらそんなもの何になる"



玉章に逆らい見下した兄たちは見殺しにした。


その刀は妖怪を殺すことで力を得てゆく刀だった。玉章は増殖する力を得、どんどんと···強くなっていった。


そして···妖怪達は玉章についてきた。新生四国八十八鬼夜行の誕生だ。これが···“おそれ”なのだと気付いた。


妖怪達の血肉に固められた刀がそっとリクオの顎に添えられぐっと上を向かせた。



「この街に来て一週間···とうとう玉章の“畏れ”が···奴良組総大将のそれを凌駕したのだ!」



そう言った玉章に私が夜桜を構えると同時に首無たちが玉章に攻撃を仕掛けた。



「リクオ様からはなれろぉお〜〜〜〜!!」



黒田坊の錫杖と玉章の刀がギィィィィンと交差して首無たちが玉章の動きを止めるとその後ろから、



「玉章ィイイイイ!!」



刀を大きく振り上げた猩影が飛び出した。だがそれを玉章は背中に背負っていた骸たちで防いだ。ドンッと大きく膨れ上がったそれに当てられた首無たちがズザザザと後ろに下がる。その間をすり抜けて私は夜桜を構えると玉章に向かって下段から斬りつけた。


ガッキィィンと交り合った夜桜と玉章の刀。間近で睨み合う私と玉章。先に動いたのは玉章で、そいつは交り合ったままの刀をぐっと押すとそのまま私を剣圧で吹き飛ばした。



『くっ···』



咄嗟に腕を交差させて受け止めた私はハッとして手許を見た。夜桜がないのだ。慌てて周りを見回すと少し離れた場所に夜桜が転がっていた。チッと小さく舌打ちをした私はリクオに攻撃を仕掛けようとしている玉章とリクオの間に割って入って、



『桜の舞』



ふわりと浮き上がった無数の花びらたちが鋭い刃となり玉章に向かっていった。それを即座に刀で斬りつける玉章にニヤリと笑って私は右手を上げた。










「神夜、様···?」



空に向かって右手を上げる神夜を見つめて氷麗が口を開いた。彼女の前では玉章が彼女によって作られた桜たちを相手にしている。


彼女を囲むように少量の花びらが舞っている。その姿を見て、氷麗は緩む口許を隠すために着物の袖で口許を隠した。白んだ空に薄く反射した光が神夜の周りを舞っている花びらたちを光らせている。キラキラと光る花びらの中心には九つの尻尾を揺らし、長い金色の髪を風に靡かせている───奴良組の華。


嗚呼、何て綺麗なんでしょう。


その言葉だけが今の神夜に似合う。氷麗は只そう思った。


目を細めて見つめる先には、


奴良組の若頭が大事にしている女性ヒトで。


自分が守らなくてはならない女性ヒトで。


皆に愛されている姫様で。


私が───大切だと思っている女性かた



『御出で、夜桜』



ビクンッと反応した夜桜。


玉章は桜たちを全て斬り落とすと神夜に向かって刀を振り下ろした。


今、夜桜を持っていない彼女には桜だけが頼りなのに、彼女は只笑みを浮かべているだけ。
















ドゴォォンと大きい音を立てて私と玉章の周りに煙が舞った。


しばらくして煙が晴れたそこには───夜桜を手にして玉章の刀を受け止めている私の姿。


私は目の前の玉章を鋭く睨みつけると、周りの桜の花びらたちを玉章の元へと向かわせて、それに一瞬怯んだ彼を一気に夜桜で押し返して斬りつけた。ま、避けられたけど。


距離をとった玉章が真っ直ぐに私を見つめる。



「なぜ······かぐや姫はこんな弱い奴についてゆく···?」



はあ?当たり前の事を聞くな。



『愚問ね』



夜桜を肩に乗せて眉を顰めた私がそう言うとリクオが祢々切丸を支えにグ···と立ち上がろうした。



「玉章···てめぇの言うその“畏れ”。オレたちはテメェのどこに感じろってんだ···?」



シュウウ···と彼の体から煙が出る。



「てめーは刀におどらされてるだけで、てめー自身は············器じゃねーんだよ」



ピクッと反応した玉章。ぐら···とリクオの体が動いた。



「ボクがおじーちゃんに感じた気持ちは怖さとは違う···」



「ボク」という言葉に私達は驚いてリクオを見つめた。



「強くて···カッコよくて、でもどこかにくめない。だからみんなついてゆく───“あこがれ”なんだよ。畏れ···てのは」



そう言って顔を上げたリクオには鋭さだけじゃなくて人間のリクオを思わせる面影もあった。それに私達は驚いて目を張る。


昼と夜の血が···混ざってる···?



「そんなじーちゃんが作った奴良組。神夜がいて···カラス天狗がいて···牛鬼が···みんながいるこの組を守りたいんだ」



徐々に立ち上がるリクオ。



「ボクは気付いた。それが百鬼夜行を背負うということだ!!仲間をおろそかにする奴の畏れなんて───誰も···ついていきゃしねーんだよ!!」


「だまれ」



そう一言言って玉章はリクオを斬りつけた。···が。



「あ?」



ぬらりひょんの畏れでそれを避けたリクオに玉章は困惑した。



ーー何だ!?今───確かに······斬った···はず·········?



ゆら···と揺れるリクオの体。



ーーだが───手ごたえがない···。何だ···?“畏れ”の発動か···?


いや···違う···姿は見えるぞ!?何だ···今のは───!?



ゾクと冷たい何かが玉章の体を襲った。目の前にはいつの間にか祢々切丸を振り上げているリクオの姿。



「!!」



ーーぬらりひょんの新たな力か───!?



いつの間にか目の前にいたリクオを避けることなどできず玉章は唯々リクオを見つめるだけ。



ーー鏡花水月!!



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