二
呆然と私達が見ているのをいいことに玉章は長い髪を振り回し、刀で仲間の四国妖怪達を次々と斬りつけていく。
「なっ···なんで自分の百鬼夜行を斬りつけているのだっ!?」
「わからねェ···とち狂ったんじゃねェか玉章のヤローー」
「拙僧には理解不能」
首無、青田坊、黒田坊が後ろでそう言っているのを耳にしながら目の前の玉章の行動を見ていると、私の隣にいた氷麗がリクオに向かって口を開いた。
「リクオ様、危険です!!お下がり下さい!!」
「···」
氷麗の呼びかけに答えることはなく、リクオは小さくチッと舌打ちをした。そのまま私と氷麗の方へ下がってくると、私の体を抱き寄せて氷麗と共に玉章から距離をとる。
玉章はフハハハハ!と面の下で笑いながら髪の毛を振り回し、次々と仲間を斬り捨てていく。
死んでいく妖怪の気を玉章が···いやあの刀が吸い取っているんだ。
『そうか···!あれは
蠱術だ···!!』
「蠱術···?」
「何ですか?それは」
両隣にいるリクオと氷麗が私を見つめる。
私の父は母と一緒に暮らすまでは陰陽師だったという。まだ両親が生きていた頃、父から少し蠱術について聞いたことがあるのだ。
蠱。蠱術の「蠱」とは···読んで字の如く一つの皿に多くの毒虫が混在している状態。毒虫は生き残る為に殺し合いやがて一匹だけが生き残る。
その“一匹”には死んでいった他の虫どもの“恨み”や“念”がこもり···呪われた生物“蠱毒”が造られる。その虫を使役し···人を暗殺などするのが蠱術の方法。
“犬神術”と同じように···最も原始的な人が生んだ呪術の一つ───···。
『あの刀はその蠱術のように斬った者の血肉や恨みを力に変えてるのよ』
一人で百鬼夜行を背負っているのと同じだ。
私はチラリと針女に視線を向けた。
八十八鬼夜行は───玉章の為だけに存在したというのだろうか···。
玉章からおぞましい妖気がどんどん溢れてくる。
すると私達の前に買い物袋と財布を手にしたゆらが現れた。その姿に目を見開く。なんであの子···制服姿でこんなところにいるの!?
「え···?あれって···神夜様とリクオ様の学校の···」
なぜゆらがここに!?
「···おいおい」
「お!!何かいる!!」
「ゲェーー何あいつー!?」
「妖怪じゃねー!?」
「うそっ···恐いー!!」
追い払ったはずの人間たちが次々と集まってきた。まずい…これ以上暴れられたら人間たちを傷つけかねない。
「待て!!そこの妖怪!!人を害する事はこの私が許さへんで!!」
ゆらがそう叫んだ。
「たんろーー!!ろくそんーー!!いくで···全式神出動やーーーー!!」
投げた式神は二体の狼となり現れるがすぐにそれは玉章によって消されてしまった。
すぐにいなくなった式神にゆらが「え」と目を見開くと玉章の持っている刀の剣先がゆらの口内に当てられた。「アグッ···」と突然の圧迫感にゆらが声を上げる。
「何のつもりだ···?ん···?」
その刀にはたくさんの妖怪の血肉が纏わりついていて見ている私でさえ気持ち悪くなる。心を恐怖に支配されたゆらは「ハッあ、あぅ···あ···」と苦しそうに声を上げて体を震わした。
そんなゆらの姿に私は、リクオの腕の中から抜け出すと夜桜で玉章を斬りつけてゆらから離した。少々軌道がずれたようで玉章の仮面を半分だけ斬ってしまった形になったがゆらから引き離せたので十分だろう。
カラン···と仮面の半分が地面に落ちた。
『死ぬわよ、あんた。下がってなさい』
私の呼びかけでハッとしたゆらは食って掛かってきた。
「お···お前は···かぐや姫···!?なんでここに···」
「言ってる場合か。消えろ」
ゆらの後ろから現れたリクオがそう言って私を庇うように前に立つ。「んな···」と声を上げたゆらを気にすることなくリクオに声を掛けようと口を開くが、突然グルラ···と揺れた玉章の体に口を閉じた。
「玉章···それがてめェの百鬼夜行だ······ってのかい」
背にたくさんの妖怪の亡骸を背負った玉章を睨みつけるリクオ。
ーギィィィン
玉章はリクオに斬りかかるが彼は祢々切丸でそれを受け止めた。
「そうだよ···リクオ君···。素敵だろう?ボクの···百鬼夜行は···」
「魑魅魍魎の主ってのは、骸を背負う輩のことじゃねーんだよ!!」