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それをいいことにリクオは私の腰に腕を回して引き寄せてきた。密着する私とリクオの体。


意外とこの体勢、恥ずかしいんだが···。



「私の組が···そんな···誰よりも···殺してきた···最強軍団なのに···」



自意識過剰ね。上には上がいるのよ。


ため息をついて懐から扇を取り出し、口許を隠しながら飽きれた様に目を細め動揺しているガゴゼを見つめる。



『ガゴゼ、妖怪の主になろうってモノが人間いくら殺したからって···なんの自慢になるのかしら』
「う···」



小刻みに震えながら一歩後退するガゴゼへと、青田坊が詰め寄る。



「あきらめろ。この企み······指つめどころじゃすまされんぜ」
「くっ···ん?」



また一歩後退するガゴゼが目をつけたのは後ろで様子を見ていたカナたち。振り返ったガゴゼに気づいたカナたちの目が見開く。体の向きを変え、ガゴゼは子供たちの元へと駆けて行く。



「フハハハハハハ!ザマぁ見ろ!!」
「!?何っ···」



追い詰めていていた黒田坊と青田坊が目を見開いた。



『さすが雑魚妖怪。考えることも小さいわね』



溜息をついた私は、リクオが腰に回していた腕を離すと同時にリクオから少し離れた。



「こいつらを殺すぞ!?若と姫の友人だろ!?殺されたくなければオレを···」



カナは友人でも男子二人は残念ながら知らない。


だが、そんなガゴゼの言葉は最後まで続くことはなかった。悲鳴を上げる子供たちの前に祢々切丸を抜刀したリクオが立ち塞がり、刀を真っ直ぐガゴゼに食い込ませていたから。


情けなく悲鳴を上げるガゴゼ。



「若!?」



妖怪達の狼狽える声を気にする事無く、リクオは刀に体重を掛けてガゴゼの顔面に食い込ませる。


八歳で妖怪を正面から真っ二つにするなんて、中々肝が据わっていると思う。この調子でいけば将来が楽しみだ。



「なんで···なんで···貴様のようなガキに···ワシの···ワシのどこがダメなんだ!?妖怪の誰よりも恐れられてるというのにーー!!」



ガゴゼは子供を殺して【恐がられる】ことが【畏】だとでも思っているのだろうか。そんなの総大将の器には相応しくない。



「子を貪り喰う妖怪···そらあ【おそろしい】さ…」



ガゴゼの考え方は甘すぎる。



「だけどな···弱えもん殺して悦にひたってる、そんな妖怪がこの闇の世界で一番の“おそれ”になるはずがねぇ」



真の【畏】を理解していない妖怪など、奴良組には必要ない。


リクオがその紅の瞳を鋭くしてガゴゼを睨みつけると、ガゴゼは震えながら一歩後退した。



「情けねぇ···こんなんばっかかオレの下僕の妖怪どもは!」



リクオの立ち振る舞いはここにいる妖怪達が畏れるほどもので。



「だったら!!オレが三代目を継いでやらあ!!人にあだをなすような奴ぁオレが絶対ゆるさねえ!」
「若···」



面白い。
扇の下でニヤリと口許に笑みを浮かべる。やっぱり貴方は見ていて飽きない。
 


「世の妖怪どもに告げろ!オレが魑魅魍魎の主となる!!」



そう宣言したリクオは祢々切丸をくるりと回す様にガゴゼを真っ二つに斬り裂く。



「全ての妖怪はオレの後ろで百鬼夜行の群れとなれ!!」



吹き出した鮮血が舞う中、優雅な動きで納刀したリクオはふっと笑みを溢す。そんな姿に、思わず胸が高鳴った。


「畏れ」───。
その文字は普通ではない者───「鬼」が「ムチ」を持つという意味の字。
それはすなわち、未知なるものへの“感情”───。
「妖怪」そのものを表す。
ガゴゼのような悪行も「恐れ」───。
だけど───それは妖怪の一面に過ぎない。


闇世界の主とは───人々に畏敬の念さえも抱かせる、真の畏れをまとう者───。


ゆっくりとリクオは私に視線を向ける。



「神夜···後悔しても離さねえからな」



扇の下で口端を吊り上げると、パチンと扇を閉じ懐にしまってからリクオの元に歩み寄る。



『後悔なんて絶対しないわ』



私はずっと貴方の隣を望んでいた。


じっと私を見つめるリクオの目を見返しながらふわりと笑う。



『このかぐや姫、何時如何なる時も若のお側にいることを誓いましょう』



貴方が命じればなんだってする。貴方の隣を歩けるならば、なんだってやる。その覚悟は随分と前から、貴方が覚醒する前からできている。



「オレの隣はお前だけ。違うのか?」



ニヤリと悪どい笑みを浮かべながら恥かし気もなく言い切ったリクオは、私の頬に手を添えて反対の頬に口づけを落とす。目を見開いて顔を真っ赤にしている私を満足げに見るその顔。



『その顔、憎たらしいけど。嫌いじゃないわ』



私も彼の顔を見ながらニヤリと笑った。



「お前はオレが絶対···守ってやる、よ···」



ドサッとリクオは私に凭れかかってきた。それを抱き留めながら私は座り込む。



「リクオ様···?」



木魚達磨の声を耳にしながらリクオを見ると彼はすやすやと寝息を立てていた。


私だって眠たいのに。



「ど···どうされましたー?!」
「まさか···やられていたのか!?」



妖怪達が「若ーっ」と騒ぎ出すのを右から左に流すと彼の髪が徐々に短くなっていく。


そして放たれていた妖気も消え失せて。そこにいたのは覚醒する前の【人間】の姿のリクオだった。



『人間に···戻った···?』



妖怪達が驚いたように私を見る。



「まさか···四分の一···血を継いでるからって一日の···四分の一しか妖怪で···いられない···とか···?」
『かもしれないわね···』
「えええええ!なんですってぇぇーー!?」
「そ、それってどーなるのぉーー!?」
『いや、可能性の話だからわからないわよ···?』



そんな私の声なんか耳に入らず妖怪達は「若ァァァァァ!!」と悲鳴を上げた。



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