救命ボートに乗っていた乗客たちは、海上保安庁の巡視船『いず』に救助され、船内で一晩を明かした。
『いず』の乗員は毛布にくるまった乗客たちに温かい飲み物を配ったり、子どもたちに安心するように優しく話しかけたりと、懸命に世話をしてくれた。
やがて、水平線に朝日が昇り、一部の乗客は甲板に出て、その美しい景色を眺めていた。
オレンジ色に輝く朝日が海に光を放ち、さざ波がゆらゆらときらめくのを見ていると、昨夜の出来事がまるで悪い夢だったかのように思えてくる───。
コナンと花恋も阿笠博士と灰原と共に甲板に出て、朝日に輝く大海原を見つめていた。
「じゃあ、彼女の犯行を確信したのは、日下のアリバイ工作があまりにも単純だったから?」
灰原がたずねると、コナンと花恋は潮風に吹かれながら「ああ/うん」とうなずいた。
「あんな単純なアリバイ工作が成立したのは、相手の美波子さんにそのアリバイ工作を利用する意図があったからこそなんだ。それに、スラッとした脚の貴江社長に変装できるのは、同じスラッとした脚の彼女しかいないだろ?」
三人の背後で聞いていた阿笠博士は「なるほどのォ」と感心した。
「じゃが、よくわかったのぉ、蘭君の居場所が」
『ああ、それは······』
花恋が言いかけたとき、蘭と園子、小五郎が歩いてくるのが見えた。
『あのとき、ホントはコナンはバレーボールを蹴ってたのに、蘭姉ちゃん、サッカーボールって言ったんだ。それに私がバスケしてる音も聞こえてたみたいだし。だから、音が聞こえてくるところに隠れてたんじゃないかなぁって思ったんだよ』
花恋の推理を聞いた園子が「でも残念ねぇ」とつぶやく。
「蘭が助かったのは嬉しいけど、蘭を見つけて助けられるのは蓮華だけだと思ったのに」
アハハ······と笑う蘭を見て、花恋はフッと目を伏せた。
いや、蘭を助けたのは私じゃない。
助かったのは───······。
「蘭お姉さーん!」
花恋が顔を上げると、反対側から歩美、光彦、元太が手を振りながら駆け寄ってきた。
「金メダルの修理終わったぜー!」
「今度はちゃんと首にかけられるようにヒモを長くしました!」
「わたしがかけてあげる!」
蘭は「うん」とうなずいて子どもたちに近づき、歩美の前でしゃがんだ。
歩美が蘭の首に貝殻で作った金メダルをかける。
「ありがとう」
「なかなか似合うじゃねーか」
小五郎の声に、蘭は「うん」と嬉しそうにうなずいた。
「大切にするね」
蘭が金メダルを手に取りながら礼を言うと、子どもたちはエヘヘ···と照れたように笑った。
花恋とコナンも三人の姿を見て、フッと笑みを浮かべる。
((助かったのは、あの子たちが作った相手を思いやる気持ちのおかげだよ······))
子どもたちが貝殻で作った金メダルは、蘭にとって本物の金メダルよりずっとずっと価値のある大切なものになったのだ───。
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