×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
15
センターサークルにはバラバラになった鉄骨が散乱して黒煙を上げていた。
地面に叩きつけられたコナンが起き上がろうとした瞬間、左肩に激痛が走った。
「くっ······」痛みに耐えながら体を起こすと、左肩から血が流れてTシャツが真っ赤になっていた。
頭もどこか切れたらしく、額に血が流れ落ちてくる。
コナンはポケットから携帯を取り出し、国立競技場にいる花恋に電話をかけた。


(頼む······蓮華、出てくれ!)


プップップと短い呼び出し音が鳴ったと思うと、すぐに『留守番電話に接続します』とアナウンスが流れた。
「クソッ!」コナンは携帯を切って顔を上げた。
横たわった鉄骨と土煙の向こうに中岡の姿が見える。


「早く逃げな、小僧。おまえに恨みはねえ。爆弾を止めることができるのは、十一人目のストライカーのみ。······だが、ヤツは勝負に敗れ、ここにはいない」


中岡は小五郎を見下すように冷ややかに笑い、電光掲示板を見上げた。


「あと二分で復讐も終わる。これで知史の無念も少しは晴れるだろう」


「ふざけんな!」立ち上がったコナンは左腕の袖を上げ、リストバンドで額の血を拭った。


「あんたは夢破れ逃げたあげく、知史君の死を利用して他人に怒りをぶつけてるだけじゃねえか!」
「何!?」


中岡が眉を上げ、コナンは拳をギュッと握りしめた。
肩から流れる血がリストバンドを赤く染めてゆく。


「勝手に自分の限界を決めつけて、夢を諦めちまう臆病者だ!!」
「このガキ······言わせておけば······」


中岡の唇が怒りでわなわなと震える。
コナンは中岡をにらみつけた。


「ガキはてめえの方だって言ってんだよ!全てを他人のせいにし、自分の都合の悪いことは全部嘘だと否定し、ブチ壊そうとする。とんでもねえわがままボウズだ!わかんねえのか!あんたが否定してんのは知史君が大好きだったサッカーなんだぞ!」


知史の名前を出したとたん、中岡の表情が揺らいだ。
眉間にシワを寄せてギュッと目を閉じる。


「あんた、知史君の思いまでブチ壊そうとしてんだぞ!それがまだわかんねーのかよ!!」


あらん限りの声で叫んだコナンは、荒い呼吸をしながら左肩を押さえた。


「中岡さんっ。あんたは間違ってる!!」


コナンはそう言うと、額から頬に伝う血をリストバンドで拭った。
中岡の目にはその動きが、リストバンドで汗を拭う知史とだぶって見えた。


「ほんとなんだよ······お兄ちゃん······」


知史の声まで聞こえてきて、中岡は思わず「知史······」とつぶやいた。
が、すぐにハッと我に返って後ずさりした。


「なっ······なぜ、おまえがそのリストバンドを······」


コナンが「え?」とリストバンドを見る。


「それは······オレが知史にやった······いや違う!そんなはずねえ」


立ち止まった中岡はギュッと目をつぶり、頭を左右に強く振った。
目を開けると、キョトンと中岡を見つめるコナンの姿がまた知史に見えてきた。
知史が悲しそうに中岡を見つめる。


「誰も悪くないんだよ。だからもうやめて······お兄ちゃん!」


知史の声が耳に響いて、中岡は目を見開いた。


「そ······そんな······オレが間違っているとでも言うのか、?知史······」


中岡は後ずさりながら苦しそうに頭を抱え、左右に強く振った。


「······オレは敵をとっておまえのところへ行きたかっただけなんだ。なのにどうして、知史······おまえまでオレを否定するんだ······!」


悲痛な声を上げた中岡は膝をつき、泣き始めた。


「中岡さん······」


コナンが泣き崩れる中岡の姿を悲しげに見つめると、中岡がふいに顔を上げ、コナンに手を伸ばした。


「もう時間がない······知史······逃げろ······」


次の瞬間、観客席から爆音が轟いた。
最上階から次々と爆発が起き、フェンスやシートをなぎ倒していく。
鉄骨の支柱からも次々と火が吹き、轟音を立てて崩れた。
グラウンドにも爆風が押し寄せ、コナンは足を踏ん張らせて耐えると、前方に立つホーム側のゴールをにらみつけた。


「クソォーーー!」


コナンは叫ぶと同時にゴールに向かって駆け出した。


「よせっ!」


中岡が立ち上がる。
しかしコナンは無視して鉄骨の上に飛び乗り、大きくジャンプして腰につけたボール射出ベルトのボタンを押した。


「冗談じゃねえ!諦めてたまるか!!」


ベルトからボールが飛び出して芝生の上でバウンドすると、着地したコナンはすばやくキック力増強シューズのスイッチを入れた。
ボールを追いかけて中岡の前を走り抜ける。


「無理だ!子どもの力じゃ······!」
「止める!爆弾はオレが絶対止めてやる!!」



『新一』



頭の中に花恋の笑顔が浮かんだ。


(こんなとこで······死んでたまるかよ!!)


コナンは次々と燃えた破片が落ちてくる中を走り抜け、


「行っけぇーーー!!」


クロスバーのど真ん中に向けて思い切りボールを蹴った。
ボールは狙いどおりクロスバーを目がけて一直線に飛んで行く。


「もらったー!!」


コナンが拳を握りしめた瞬間、爆発で燃えながら吹っ飛んできた照明がボールを弾き飛ばした。
さらに天井の鉄骨がゴール前に落下し、地響きと共に土煙が上がる。
転がったボールは空気が抜けてしぼんでしまった。


「そんな······ボールはあの一球しかねえってのに······」


しぼんだボールに目を落としたコナンは顔を上げ、ゴールを見つめた。
ゴールの前にはガレキの山が立ちはだかっている。


(さっきの爆発が三回目ってことは、残り時間はあとわずか······どうする?)


コナンは焦る気持ちを抑えながら、必死で考えをめぐらせた。


(ガレキが邪魔で直接ゴールポストが狙えねえし、すでに手持ちのボールもねえ······どうする!?)


そのとき、観客席の方から「コナンくーん!」と呼ぶ声が聞こえた。
コナンが驚いて見上げると───サポーターズシートの一階席から歩美が手を振っている。


「助けに来たよー!」
「早く逃げろ!爆発するぞ!!」


コナンが叫ぶと、「コナーン!」「コナンくーん!!」と光彦と元太の声が聞こえてきた。
二階席の下段に光彦、そして上段に元太が立っていて、大きく手を振っている。


「おめーら!早く逃げろって言ってんだよ!爆弾を止めようにももうボールがねえんだ!!」


コナンが必死で叫ぶと、元太はボールを掲げた。


「ボールならあるぞー!!」


それはヒデのサインボールだった。


「何だかよくわかんねえけど、このボールで爆弾が止まるなら······」


元太はそう言うとボールを床に置き、斜め下にいる光彦に体を向けた。


「行くぞ、光彦!」
「え!?いいんですか?そのボール······」
「しっかり受け取れよ!」


元太は後ろに下がり、助走してボールを蹴った。
「オーライ!」光彦はボールを見上げながら後ろに下がり、胸でトラップしたボールを手でつかんだ。


「歩美ちゃん!このボールをコナンくんに頼みます!」
「うん!」


一階席の歩美がうなずく。
光彦は右足を後ろに振り上げ、思い切りボールを蹴った。
ボールは大きく上がって歩美の頭上を通り越し、バウンドした。


「あー待って!」


歩美は慌ててボールを追いかけ、両手でキャッチした。


「よし!いいぞ歩美ーっ!」
「早くコナン君にー!」


元太と光彦が二階席から叫ぶ。
歩美は「うん」とうなずき、しゃがんでボールを置いた。


「歩美ーっ!こっちだー!!」


グラウンドに立ったコナンが大きく手を振る。
そのコナンの姿が見えたとたん、歩美が不安そうな顔をした。


「どうしよう······あんな遠くまで歩美、蹴れないよぉ」
「ガレキさえ越えれば大丈夫です!」
「サッカー教室を思い出せ!歩美!」


光彦と元太が歩美を励ます。
歩美は「······うん!」と顔を引き締め、ボールを見つめた。


「おめーら······」


三人を見つめていたコナンは思わず微笑んだ。


「行くよ、コナンくん······」


後ろに下がった歩美はボールを見つめ、助走すると右足を大きく後ろに振り上げてボールを蹴った。
ボールはゴール前のガレキの山に向かって弧を描いて飛んでいく。
しかし、ガレキの山を越えられず、鉄骨に当たって観客席の前に戻っていった。
「あ······!!」ボールを見失ったコナンは呆然と立ち尽くした。
最後の頼みの網が切れてしまった───······!
そのとき、「灰原さん!」と呼ぶ光彦の声がした。


「哀ちゃん、お願い!そのボール、コナン君に回してー!!」


歩美も下に向かって叫んでいる。


「灰原もいるのか!?」


コナンはガレキの山に向かって叫んだ。
灰原はガレキの山を越えた観客席の前に立っていた。
転がってきたボールを止めて足をのせると、不機嫌そうに眉をひそめる。


「······まったく。最後まで面倒かけるんだから。───工藤君。みんなの思い、あなたに預けるわよ!受け取りなさい!!」


灰原はつま先でボールをすくい上げ、大きく右足を後ろに振り上げた。
勢いよく蹴られたボールはガレキの山を越えたが、新たに落ちてきたガレキに弾かれ、コナンの元には届かなかった。
「あ······!!」「ボールが······!!」と歩美と光彦の声が聞こえ、コナンは「嘘だろ······」と呆然と立ち尽くした。
だがボールが転がった先に人影があり、その人影は転がってくるボールを足でとめて、右手を腰に当て左手をぶらりと下げて不敵な笑みを浮かべた。


「花恋!!」
「花恋さん!!」
「花恋ちゃん!!」


子どもたちの叫びにコナンがハッと顔を上げた。
「蓮華······!」と灰原も嬉しそうに声を上げる。
コナンは新たに降ってきたガレキの土煙がだんだんと晴れてきてその先にいる花恋を見つけ、


「蓮華······!!」


希望が見えたという風に精一杯叫んだ。


『······本当に君たちは人に面倒をかけるのが好きね。ここまで急いできて正解だったよ、やっぱり悪い予感は当たるもんだね』


ニヤリと微笑んだ花恋に灰原は声を張り上げた。


「花恋、そのボールを江戸川君に!早くしないと爆弾が······!!」
『······オーケー』


灰原の声に視線を鋭くさせ、軽くリフティングを始めた花恋に、


「頼むぞ、花恋ー!」
「花恋さーん!」
「お願い、花恋ちゃん!」
「頼む、蓮華······!!」


声をかける元太、光彦、歩美、コナンはボールを高く上げた花恋を見つめた。


『───この思い託すんだから、ちゃんと決めなさいよッ!!』


思い切り蹴ったボールはまっすぐに、黒煙を突き抜けてコナンがいるゴール前に飛んできた。


「上等だぜ······おめーら······」


***


センターサークルに立っていた中岡は、コナンたちの行動にあ然としていた。


「な、何なんだ、コイツら······この状況で、本当に爆弾を止めることができると思ってんのか!?」


中岡は振り返ってバッグの爆弾を見た。
タイマーの数字はもう残り一分を切っている。
すると再び観客席で爆発が起きた。
元太や光彦がいるサポーターズシートでも次々と爆発し、二人はよろめきながらフェンスにつかまった。
歩美も耳をふさいでその場に座り込む。


「工藤君、早くっ!時間が······!!」


灰原が叫んだとたん、さらに爆発が起きてグラウンドに爆風が押し寄せた。
黒煙がもうもうと立ち込める中で、中岡はボールの前にしゃがみ込むコナンの姿を見つめた。


「だ、駄目だ······もう一分もねえ······」


コナンはゆっくりと立ち上がると汚れたメガネを外し、ゴールを見据えた。
ゴールの前にはガレキの山が立ちはだかり、黒煙を上げている。


(クロスバーはガレキで直接狙えねえけど······あのシュートなら······!)


コナンはリストバンドで頬に流れた血を拭うと、ボールを軽く押し出して後ろに下がった。
目を軽く閉じ、サッカー教室で教わった遠藤のフリーキックを思い浮かべる。
そんなコナンの姿を見た花恋が、思い切り叫んだ。


『新一ィィィィィ!!』


コナンは目を開けて走り出した。
そしてボールを蹴る───!


「行っけぇーーー!!」


ボールは大きく右上へそれたかと思うと、横回転で鋭く左へ曲がり落ちた。
そしてガレキの山すれすれで回り込み、クロスバーの真ん中に命中した。
ゴールポストが大きくゆれ、ゴールラインに落ちたボールがバウンドしてネットに突き刺さる。


「どうだ!!」


コナンは電光掲示板を見上げた。
すると電光掲示板のカウントダウンが残りコンマ一五秒で止まり、二度点滅した。


「へへ······」


力が抜けたコナンはヨロヨロと後ずさり、その場にへたり込んだ。


「おお!すげーぞコナン!!」
「やったー!」
「コナンくーん!」


元太、光彦、歩美がそれぞれ手を大きく振り上げて叫ぶ。
立ち上がったコナンは花恋の方を見る。
それに気づいた花恋は満面の笑みを浮かべピースをした。
微笑み返したコナンは振り返り、中岡を見た。


「ナイスシュートだ」


中岡はコナンを見つめて微笑んだ。
いつの間にか復讐に満ちた表情は消え、おだやかな顔をしている。


「十一人目のストライカーは、おまえだったんだな。江戸川コナン······」


コナンも微笑み中岡を見つめると、遠くからパトカーと救急車のサイレンが聞こえてきた。
_15/16
[ +Bookmark ]
PREV LIST NEXT
[ Main / TOP ]