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子どもサッカー教室が行われる米花スポーツランドの入り口には大きな看板が設置され、抽選で選ばれたユニフォーム姿の子どもたちとその親が続々と入っていった。
グラウンドの隅にはフリーキック用の人形が並べられ、子どもたちが珍しそうに眺めている。
大会関係者やマスコミ、一般のサッカーファンも大勢集まっている中、毛利小五郎と蘭、そして蘭の親友の鈴木園子がベンチに並んで座っていた。


「ったく······何でオレまで付き合わなきゃなんねぇーんだ······」


小五郎がうんざりした顔で言うと、蘭は笑った。


「いいじゃない。どうせヒマなんだから。───あ、来た!」


コナンたちの姿を見つけた蘭が立ち上がると、歩美、光彦、元太が走ってきて、その後を阿笠博士とコナン、花恋、灰原が歩いてきた。


「遅かったわねぇ〜」


待ちくたびれた園子が立ち上がると、


「博士が悪いんです」
「また免許証の場所を忘れちゃって······」


光彦と歩美が遅れた理由を説明した。
阿笠博士がハハハ······と苦笑いをする。


「でもまに合ってよかったわね。Jリーグの選手もまだ来てないみたいだし······」


蘭が言うと、歩美が「よかったー!」と胸をなでおろした。


「夢みたいです。Jリーガーに会えるなんて!」
「オレ、サッカーボールにサインしてもらうんだ!」
「歩美もヒデにサインしてもらおう!」


光彦、元太、歩美が目を輝かせている隣で、


「私は比護隆佑!!」


園子が携帯をパカッと開いて叫んだ。
携帯の待ち受け画面には比護の画像が設定されていて、愛おしそうに携帯をギュッと抱きしめる。


「ちょっとクールな感じが私のタイプなのよね〜。あわよくば友達になっちゃおっ!ムフフ」


園子がほくそ笑むと、花恋の隣に立っていた灰原がムッと顔をしかめた。
コナンが意地悪そうに笑う。


「なんて言ってるぜ」
「別にっ!それがどうしたの?」


興味なさそうにそっぽを向いた灰原だが、内心おだやかではなかった。
口には出さないが、灰原も比護のファンなのだ。


「そういえば、蘭ってあんまりサッカーに興味がなさそうだよね」


携帯を握りしめた園子が言うと、蘭は「そんなことないよ」と首を横に振った。


「Jリーグの試合は花恋ちゃんとコナン君とよくテレビで見てるし······」
「けど、やったことはない?」
「そうね······あ、でも一度だけ中学のとき、新一がふざけて蹴ってきたボールを······」


と言いかけた蘭がハッと何かに気づき、


「そうだ!あいつ、あのとき蓮華の······!」


と眉をつり上げた。


「え?」


園子が驚き、コナンも「?」と蘭を見る。
花恋は蘭の言いたいことがわかり、頬をかきながら視線をそらした。


「どうしたの、蘭?」
「なっ······何でもない!」


蘭は顔を赤らめ、慌ててそっぽを向いた。
灰原がチラリとコナンと花恋を見る。


「······な、何だよ」
「別に······何やったのかなあと思って。中学生の工藤くん。ねぇ?花恋」
『別に······』


灰原がからかうように言うと、コナンは眉をしかめて「知らねーよ!」と答えた。
隣にいる花恋をチラリと見るが、視線をそらしたままだ。


(オレ······何かやったっけ?)


中学のころを思い返してみたが心当たりがなく、コナンは首をひねった。


「何々?工藤くんがどうしたのよ?」
「何でもないってば!」


興味津々の園子が突っ込んできたが、蘭は頬を真っ赤にして頑なに拒んだ。
二人の様子を見ていた歩美、元太、光彦がつまらなさそうに顔を見合わせる。


「まだ時間あるみたいですから、サッカーの練習しませんか?」
「うん」
「ヨシ、やろうぜ!」


三人はスペースが空いている場所に駆け出し、元太が持っていたサッカーボールを芝生の上に置いた。


「行くぞ、光彦!」


二、三歩下がった元太が右足を大きく後ろに振り上げ、つま先で力任せにボールを蹴る。


「うわっ!」


ボールは光彦のはるか頭上を飛び越え、革ジャンを着た青年の方へまっしぐらに向かった。
ぶつかる······!と思った瞬間、青年は振り返り、飛んできたボールを胸で受け止めた。
そして右足、もも、肩、頭を使って巧みにリフティングをしてみせた。


「「「ワア······!」」」


青年の華麗なリフティングに三人は声を上げた。


「コナン君みたい!」


歩美の声にコナンと花恋と灰原が振り向く。
歩美たちが目を輝かせながら青年に駆け寄ると、青年はリフティングを終えてボールを手に持った。


「おまえら、サッカー好きか?」
「「「はい!!」」」


三人は声をそろえ元気よく返事をしたが、すぐに光彦が「でも······」と顔を曇らせた。


「なかなかうまくならないんです」
「難しいよね、サッカーって」
「いつもふかしちまうし、走んのは苦手だしよ」


歩美と元太が口をとがらせると、青年はフッと笑った。


「ぜいたく言うな。元気な体でサッカーできるだけ、幸せなんだぞ」
「でもよぉ······」


それでも元太が不満げな声をもらすと、


「よしっ。オレがコーチしてやるよ」


青年はボールを元太にパスした。


「本当ですか!?」
「やったー!!」


三人が大喜びする中、コナンはベンチの前から青年を見つめていた。


「あの人、どこかで······」
『え?』


花恋と灰原がコナンの方を見たと同時に、「ワーッ」と子どもたちの歓声が聞こえてきた。
声のする方を向くと、入り口の前に一台のバスが止まり、子どもたちが駆け寄っていく。
ボールを蹴ろうとしていた元太たちも振り返ってバスを見つめた。


「Jリーグのバスだ!」
「選手が来たんですよ」
「行ってみよーぜ!!」


元太はボールを拾い、バスに向かって走り出した。


「待ってくださいよ、元太くん!」


光彦と歩美も慌てて追いかける。
残された青年は一瞬寂しそうな表情を見せると、フッと自嘲気味に笑い、子どもたちとは別の方へ歩き出した。
青年が左足をかすかにひきずって歩いているのを見て、コナンはハッとした。


「そうか、あの人───」
『何?知ってる人?』


花恋が訊くと、コナンは「ああ」とうなずいた。


「雰囲気はだいぶ変わっちまったけど、間違いない。奇跡のワントップ、中岡一雅さんだ」
『誰それ······』
「奇跡のワントップ······?」
「ああ。三年前、杯戸高校を全国制覇に導いたのが中岡さんだ」


コナンは説明しながら、左腕に赤いリストバンドをつけ、杯戸高校九番のユニフォームを着た中岡の姿を思い浮かべた。


「スピリッツへの入団も内定して、将来のエース候補と言われてたけど······決勝戦の一か月後にバイクで事故を起こして、それっきりサッカー界から姿を消してしまったんだ······」
『でも、ここにいるってことは······』
「ああ。まだサッカーに未練があるのかもしれねーな」


コナンと花恋はベンチに腰かけた中岡を見つめ、中岡が元太たちに言った言葉を思い出した。



「ぜいたくいうな。元気な体でサッカーできるだけ、幸せなんだぞ」



あれは、自分のことだったのだ······。
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